特別鼎談:SOMPOのパーパス実現に向けたSDGs経営

グループCFO兼グループCSO
執行役専務
濵田 昌宏

CSR/SDGsコンサルタント
笹谷 秀光

損害保険ジャパン株式会社
取締役執行役員
酒井 香世子

2021年度からの中期経営計画ではSOMPOのパーパス実現に向け、SDGs経営に取り組んでいきます。パーパス実現に向けたSDGs経営をテーマに、CSR/SDGsコンサルタントの笹谷秀光氏をお招きし、グループCFO兼グループCSO執行役専務の濵田と損保ジャパン取締役執行役員の酒井が意見交換を行いました。

SOMPOのSDGs経営とは何か?

濵田 私たちSOMPOグループは、これまでも「安心・安全・健康のテーマパーク」というグループビジョンを掲げ、保険の枠組みを超え、社会課題の解決に貢献すべく取り組んできました。
そして、今から約1年半前、中期経営計画をつくり始めた際には、まず10年先の環境変化を想定して、そこからバックキャストすることに着手しました。10年先のメガトレンドを考えると、2030年をターゲットにしたSDGsとオーバーラップしてきます。そこにビジネスの潮流であるステークホルダー資本主義やDX(デジタル・トランスフォーメーション)などを重ねると、「安心・安全・健康のテーマパーク」は正しい方向であったことを改めて確信しました。
さらに、社会的な価値観に大変化を及ぼしているコロナ禍の影響もありました。Withコロナ、Afterコロナを想定すると、テーマパーク構想が遠い将来に実現するビジョンではなく、その時間軸がぐっと手前にきたことを経営層全員が実感しました。そこで、改めて、テーマパーク構想の根底に流れる、SOMPOらしさ、SOMPOがどのように社会に貢献できるのか、といった自分たちの存在意義(パーパス)を見つめ直しました。
SOMPOのパーパスについて、私たちは中期経営計画づくりの早い段階から、テーマパークにより、どのような社会を目指し、どのような価値を提供するのかを明確にした社会価値創出ストーリーを議論しました。当社だけでなく実業とお客さまを持つグループ内各事業でもしっかり議論しました。
重要なことは、社会に提供する価値をしっかりと示し、それを通じて経済価値を高め、企業価値向上に資する、ということです。当初私たちは、社会価値と経済価値をどうバランスさせるかという方向で考えてきましたが、議論を重ねる中で、この2つは相反するものではなく、唯一の違いは利益獲得までの時間軸だという結論に行き着きました。
そして、この社会価値ストーリーは、もちろん3年間の中期経営計画の到達点で収まるスケールではなく、私たちの中でパーパスに昇華していきました。
パーパス策定の際に最も重視したのが、各事業会社の従業員一人ひとりがパーパスを自分事として誇りに感じ、取り組んでいけるものにするということでした。
SDGs経営は、そのパーパス実現に向けた取組みを推進するための仕組みです。それはテーマパーク構想を具体化するためのマネジメントそのものであり、新中期経営計画では経営基盤と位置づけました。今後、パーパスの実現に向け、SDGs経営によりSOMPOが向き合う社会課題を明確化し、中長期的に稼ぐ力に育てていくとともに、社外にも発信・訴求していく、こういった仕組みをしっかりと回していきます。

酒井 濵田さんよりパーパスや新中期経営計画などグルー プ全体の話がありましたが、当社グループの中核を担う損保 ジャパンの創業は、明治初めの1888年、江戸の町火消しが ルーツです。お客さまをお守りし、社会に貢献する、そのよう なマインドが130年間ずっと継承されてきています。
1992年、リオで開催された地球サミットに当社の社長が参加し、同年地球環境室を設置、私も1996年に配属されました。当時はまだ「なぜ、損保が環境問題に取り組むのか?」という声も多かった記憶がありますが、企業への期待がCSR(企業の社会的責任)、CSV(共通価値の創造)、そしてSDGsへの貢献へと脈々と進化していることを考えると、当社は比較的早くからその価値に気づいていた企業の1つだと感じています。
実際、損保ジャパンの社員の約85%が「自分の業務がサステナビリティに関係している」と認識しています。この想いをビジネスと連動させてどう進化させていくかが課題です。本業を通じて社会課題を解決し、社会価値を創出していくという好循環が回れば、さらに良い会社に成長していくと思います。
新中期経営計画では「SDGs経営」と明確に打ち出したので、この分野で唯一無二の地位を目指していきたいと思っています。

笹谷 経営とSDGsを結びつけることは大変すばらしい着想であり、とても重要です。経営により、トップや社員がサス テナビリティを理解しているかという力量(コンピテンシー)の差が現れてきます。この点は「組織の社会的責任の手引き」(ISO26000、2010年)以来重視されています。貴社にはすでにこれがあります。今までのCSRなどのレガシーは大きな強みです。
長年にわたるCSRの歴史を持つSOMPOがSDGs経営に舵を切ったことのインパクトは大です。SDGsは、ヒト、モノ・サービス、カネ、情報、これら経営の4要素のすべてに関連し、それを経営にビルトインするための手法もあり、情報発信するうえでも世界で通用する効果的な羅針盤です。これを経営の基盤として取り入れたところが優れていると感じます。

SOMPOが取り組むSDGs経営の特長は?

濵田 私は、SDGs経営という言葉を、単に「SDGsを意識した経営をしなさい」ということではなく、パーパス実現に向けた課題の明確化、長期にわたる取組みのPDCA、さらにはその発信と、まさに経営のフレームワークだととらえています。保険中心に、短期・中期の業績を追いかけるための経営フレームワークは数多く存在しますが、長期かつ非財務の取組みを推進するための仕組みはあまり多くありませんでした。
保険業界は、大きな社会問題にまで発展した保険金不払い問題を経て、改めてサービス品質が重要であることを認識しました。それ以降、当社グループでは、品質を定期的にチェックする経営のフレームワークを構築し、経営も現場も、品質に高いプライオリティを置き続けています。同様に、社会価値を創出する、あるいはSDGsに資する、しかしすぐには経済価値に結びつかない取組みを考えたとき、これをしっかりと軌道に乗せて持続させていくためには、グループ全体を覆う共通の意識づけが必要で、これがまさにパーパスです。そして、その品質を高めるためのさまざまな仕組みや経営のPDCAが、SDGs経営にあたります。
SDGs経営を進めるためのポイントとなる「経営システムへの取り込み」については、「SOMPOのパーパス」の実現に向けた重点課題を「SOMPOのマテリアリティ」として定めました。この過程では、SDGsマトリクスを作成し、SDGsの169のターゲットと、当社グループの提供する商品・サービスや今後の戦略との関係性を洗い出し、このマテリアリティの達成に向けた取組みに対して、SDGsを紐づけながらKPIを設定しました。このマテリアリティKPIは、パーパス実現に向けた価値創出ストーリーや新中期経営計画と密接に連動させており、結果的にKPIの約8割が事業との関連が色濃い、その事業の進捗を見るのに値する指標となりました。
こうすることで、社会価値と経済価値を創出し続け、できれば1年後には、当社にとってのSDGs18番目の目標を打ち出すところまでSDGs経営を持っていきたいです。

酒井 マテリアリティKPIやSDGsマトリクスを整理することで、損保ジャパンが新中期経営計画で取り組む課題とSDGs経営への取組みがかけ離れたものではなく、シンクロしているという気づきがありました。そして、今、損保ジャパンとして実践していこうと思っていることは4つあります。
1点目は、損害保険事業の中で商品・サービスを開発して、SDGsで社会を良くしていくことです。新しい技術革新にはリスクに対する保険やサービスの提供などが考えられます。また、損保ジャパンには約23,000人の社員と約48,000店の代理店の皆さまのネットワークがありますので、それらを活かして、地域固有の課題に対しても向き合っていきます。
次に、従来型の保険の提供にとどまらない社会課題解決への取組みです。具体的には、DX活用による防災・減災などの予防サービスの充実や、MaaS(Mobility as a Service)対応に注力していきます。
3点目は、気候変動問題への対応です。政府が掲げた2050年カーボンニュートラルに向けて、使用する電力の再生可能エネルギーへの変更を進めていきます。また、社会からの期待が高い「適応」分野に関しても、長年にわたって蓄積してきた知見を活かして、保険やリスクコンサルなどの新たなソリューションの提供に取り組んでいきます。
4点目は、エンゲージメント(建設的対話)です。機関投資家としてESGをテーマとした積極的な対話を展開し、投融資先企業の取組みを促進するとともに、日本社会の変革にも貢献していきます。

笹谷 「SDGsを単に意識するのではなく、経営にビルトイン」することは極めて重要なポイントです。企業のSDGsでは、経済価値と社会価値の同時実現を狙う共通価値の創造(CSV)という競争戦略の実践が重要です。ただ取り組む社会課題が主観的ではいけません。そこでSDGsを活用すれば、社会課題がSDGsにより客観化されます。これにより、他社と差別化し競争優位を築くことが要諦です。例えば、消費者の商品選択への影響や競争優位につながる連携相手の確保などです。
さらに社員が「SDGs頭」になり、社内外で「SDGs会話」が生まれ、新たなチャレンジやイノベーションにつながります。このように、組織力の面で大きな差がついてくるので、SDGsの経営へのビルトインが重要です。
また、ESGとSDGsの関連性が現在混乱しています。そこで、ESGと関連づけてSDGs17目標をわかりやすく整理できる「ESG/SDGsマトリクス」という手法を私が企業での実践の中で理論化してきました。その効果は、まず網羅的な整理でマテリアリティ選定に役立ち、かつ、企業にとって都合の良いSDGsを選んだとの批判を防ぎます。そして投資家に対する訴求力が非常に高まり、マルチステークホルダーに対しても重点が見える化します。社員の理解も進みます。今回アドバイスさせていただいた貴社のマトリクスは、SDGsのターゲット・レベルで整理し、グループ内でも共有し、全体としてマテリアティを設定したことは大変良いスタートです。
また、SDGsを実践するためのKPIの8割以上が本業とシンクロしている点もポイントです。なぜなら、SDGsでは企業の本業を通じた創造性とイノベーションが期待され、SDGsを本業に寄せることで競争力の源泉にもなり、品質が高いサービスにつながるビジネスモデルになっていると評価します。
SDGsをしっかりと経営にビルトインして徹底的に使っている企業はまだ少ないので、注目しています。

SOMPOはパートナーシップ戦略をどのように展開していくのか?

濵田 当社グループはこれまでも損害保険事業を中心にさまざまなパートナーシップを構築してきましたが、5年前から始めた介護事業では、これまでエコシステムを作ろうとしていた側であったのが、逆にステークホルダーから声がかかるようになりました。そのような中で掲げたリアルデータプラットフォーム(RDP)構想は、パートナーシップを作るうえでの鍵となる大きな取組みです。前中期経営計画では「安心・安全・健康のテーマパーク」を打ち出し、そのあるべき姿を5年間追求し続け、新中期経営計画においては、RDPをテーマパークの具体的な姿と位置づけています。
ポイントは、1つの点ではなく、点が線になり、線が面になっていくダイナミズムを含んでいるということです。最初は自社の生産性向上かもしれませんが、その先には外に対して販売し、新しい収益源にするとともに、社会課題を解決する。ここまで辿り着かないとRDPとはいいません。例えば、国の社会保障財源を手助けする、こういった大きな構想を持って、介護、防災・減災、モビリティ、ヘルシーエイジング、農業の5つの領域でRDPを考え始めています。さまざまなサービスのプロバイダーとしてエコシステムを形成していくためには、データ解析技術を持つパランティアだけではなく、データ取得、ソリューション開発のパートナーも必要であると考えています。肝心なことは、私たちのSDGsへの想い、社会課題を解決したいという想いとともに、武器となるデータプロセスの仕組みの構築であり、SDGsに対して強い想いを持つプレーヤーを呼び込み、パートナーシップをどんどん広げていきたい。私たちは、そのようなプラットフォーマーになることを目指します。

酒井 17番(パートナーシップ)はSDGsの中で別格であり、非常に大切だと思っています。現在の複雑な社会課題は、企業単独での解決は難しい。当社は1990年代初頭から環境問題の解決に積極的に取り組んできましたが、当初から「ステークホルダーとの協働」にこだわってきました。これまで300以上のNPOとの協働や200を超える自治体との連携協定締結の実績もあり、例えば、環境NPOと協働で展開している「市民のための環境公開講座」には30年間で約3万人の方に受講いただいています。私たちのパートナーシップの取組みは、「SDGsウォッシュだ」と絶対に言われない自信があります。
さらに近年は、社会起業家の存在感が高まり、若年層のマインドも大きく変化しているため、そういう方々と地域の企業や自治体をつなげる新たなプラットフォームも構想しています。また、損保ジャパンの社員を派遣している慶應義塾大学先端生命科学研究所(山形県鶴岡市)では、ベンチャー企業やNPOを巻き込んだ新たな共創にもチャレンジしています。人材育成やシニア人材のリカレント教育などの観点もふまえつつ、パートナーシップの形をさらに進化させていきたいと思います。

笹谷 聞けば聞くほど奥が深いですね。保険は幅広い社会課題に対してアプローチができるので、社会課題解決のハブとなりえます。新たに獲得したRDPも含め、パートナーシップのプラットフォーマーになる資質があると思います。SDGsは磁場みたいなもので、パートナーシップを強固にし、イノベーションを呼び込みます。SDGsを使った連携は共通言語により話が早いです。今後のRDPのSDGsによる効果をイメージするには、SDGs17番(パートナーシップ)を真ん中に据えて、その周りにほかのSDGs目標を描きます。そして、RDPによりB2B2Cを通じた出口としてのデータの活用先のさまざまなソリューションにつなげ、結果として周りにあるSDGsの多くの目標に貢献するという見せ方も考えられます。例えば、介護は目標3(健康)、レジリエンシーは目標11(持続可能なまちづくり)などです。そうするとRDPは網羅的なSDGs王国のようになっていくと思います。
SDGsには規定演技と自由演技があります。規定演技であるマトリクス整理をすると多くの課題が当てはまりますが、貴社は奥深いビジネスモデルなので、17の目標だけでは説明がつきません。特にSDGsを盛り込んだ国連文書「我々の世界を変革する:持続可能な開発のための2030アジェンダ」にも明記されている「身体的・精神的・社会的なwell-being(より良き生き方や幸せ)の保障」は言い表せないと思います。その部分は自由演技になります。これを私は「SDGsの18番目の目標」といっています。貴社からの発信は世界的にリアクションを生み、グループ全体が活性化します。世界を睨んだ動きが加速されるでしょう。難しい社会課題解決に向けてSDGsで重視する「ムーンショット」とか「レベル・オブ・アンビション」を感じさせると思います。
また、損保ジャパンの巨大なネットワークがSDGs化していくと、グループ内でモデルになり水平展開する役割を持ってきます。そして、歴史と伝統、社内風土、ネットワーク、ブランドへの信頼、グループ力、リスク管理のノウハウといった無形資産を遺憾なく使いSDGs経営を行うと、企業ブランドのリ・デザインにつながります。
コロナで起きた一番大きなことはヒトの分断です。今までの価値観が通用しなくなり、自省する人が増え、パラダイムシフトが起こりました。SOMPOのSDGs経営では、ESGの「E」のカーボンニュートラルに加え、ESGの「S」で重要なヒトにも焦点を当てていますので、コロナ後のビルド・バック・ベターに貢献するソリューションプロバイダーとして、世界から期待される企業になると思います。