社外取締役 三委員長特別鼎談

スコット・トレバー・デイヴィス
(指名委員会委員長)

  野原 佐和子
   (報酬委員会委員長)

柳田 直樹
(監査委員会委員長)

~「安心・安全・健康のテーマパーク」実現に向けたSOMPOグループのガバナンス~

Q1 社外取締役の皆さんはSOMPOグループでどういった視点を大切にしているか教えてください。

デイヴィス 一貫して意識しているのは、社外の視点を持ち、あるべき姿と実態の両方を頭の中で常に描きながら客観性を担保することです。私たちは社内の役員ではないので、外部の立場で、提案されることに対してクリアな目線で判断を下すことが求められます。
私自身、公私を区別する必要がある教授職をしているので、この視点は特に意識するようにしています。同様に、ほかのお二人もそれぞれ自分なりの視点というのがあると思います。

野原 私は、社外としての視点を意識することに加えて、足もとだけでなく、大所高所から俯瞰的に見るというところに注意しています。
落としどころを見つけていくというのではなく、むしろ違う視点の意見を言うことで、少し視野を広げて、新しい視点に気づいてもらうことが重要だと思っています。こうした意味で、議論を発展させるための「一石を投じる」ことが私の役割です。
もう一つ、私の場合は、やはり女性として選ばれているということも意識しています。女性として気づく点もあると思いますし、女性の地位向上につながるようなことについては意識して発言するようにしています。

柳田 私も社外の評価は特に気にかけるようにしています。会社の外部からの評価を十分考慮し、経営判断を行う。これは会社にとって非常に重要なことですし、当社グループにおいても然りです。第三者目線で見ても「なるほど。それならわかる」というものになっているか、内部の常識のみで動いてしまっていないかという視点です。
また、特に私は監査委員でもあるので、経営判断の原則に照らして適正な手続きがふまれていて、合理性のある判断がなされているかどうかというところは常に意識しています。
別の観点になりますが、とても速いスピードで改革が進み、比重が大きくなってきている海外保険事業や、保険会社としてはある意味特殊な介護・ヘルスケア事業については、特に注意して見ているというのは当社グループならではの視点かもしれませんね。

デイヴィス 私は社外取締役にも上司がいると考えています。その上司こそが、委任をいただいている株主です。
また、さまざまな方針・ポジション・期待を持った株主すべてに目を向けることが重要であると考えていて、株主の意見を代表して論じることを意識しています。

野原 社外としての視点を持って社内の判断に加わるだけでなく、株主の代表として、会社の経営状況に関して監督・助言する役目もあるということですよね 。私たちはそれぞれの経歴を活かし、自分のこれまでの経験や専門分野をもとに前向きな発言ができる立場にあると思っています。当社グループの価値が向上するように、俯瞰的に監督し、建設的に助言しています。

Q2 指名委員会等設置会社への移行から1年が経過しましたが、変化したと感じる点などをお聞かせください。

野原 従来は一つになっていた、経営の監督と業務執行が分離され、取締役会は経営計画の決定と執行状況の監督に特化して、執行に関わる具体的な部分は、Global ExCo*と経営執行協議会(MAC)にするという体制になりました。
このことによって、経営はよりスピードアップしたと感じています。

デイヴィス 執行への権限移譲を執行側の一人ひとりが受けるのではなく、執行体制として受け止めるべく、指名委員会等設置会社への移行と同時に、海外を含めた執行側の意思決定プラットフォームであるGlobal ExCoと、国内を基本とした執行側の意思決定プラットフォームである経営執行協議会(MAC)を同時に作りました。
これがとてもうまく機能しているから、スピードが上がったのだと思います。

野原 直接Global ExCoにオブザーバーとして同席することによって、国内事業だけでなく海外事業についても見えてくるようになりました。
より現場に近いところで、会社や国の枠を超えて事業会社のトップ同士がどのような議論をし、どのような経営プランを考えているのかといったことを見ることにより、整理されて上がってくる取締役会の議題を見ても、その行間がより理解できるようになったため、執行状況の監督がやりやすくなりました。

柳田 確かにそうですね。同席をしていても、資料を見ても、Global ExCoは極力その場で決めていこうという姿勢がよく見えます。もちろんその場で決められないこともありますが、具体的に期限を決めて進めていく姿勢が非常によく出ています。議論のための議論はせず、決めていくための議論をしようという考え方が全体に浸透しているような印象です。

デイヴィス 私は、指名委員会等設置会社への移行によって、スピードが速くなっただけでなくて、逆に時間がかかるようになった側面もあると思っています。経営戦略の検討、そしてその評価にかける時間は大幅に増えました。メリハリのある、非常に深い議論ができているのです。
一方で速くなり、一方で時間をかけるところはかける。より健全なバランスがとれたということだと思っています。
ここまで、スピードの話をしてきましたが、最も大事なのは計画的意思決定に十分な機動性がある体制がとれているかということです。経営戦略について前倒しに考えることのできる時間が十分にとれているか、その議論をするための場が確保されているか、この両方において、当社グループのガバナンス体制は極めてよく手当されていると感じています。

【解説】*Global ExCoについてはこちら

Q3 当社グループが目指す「安心・安全・健康のテーマパーク」というテーマに関して、どのような点に期待されていますか?

野原 このビジョンは、グローバル化と事業の多角化をどのような形で行っていくべきかを示している大変素晴らしいビジョンだと思っています。日本の社会課題解決に寄与するということで、日本国内ではすでに期待が高まっているのではないでしょうか。さらには海外からも注目される企業として存在感を増していくターニングポイントとなりうるのではないかと期待しています。
現在、大きな柱として、国内損害保険、海外保険、国内生命保険、介護・ヘルスケアの4つの事業があり、そこにデジタルをはじめとした他の事業が加わりつつある状況です。それに伴ってさまざまなサービスが開発されています。例えばアジアで言うと、介護や認知症関連サービス、さらにアジア以外でも農業保険などのサービスの展開が今後期待されます。これらを、いかに速やかに、魅力的に展開していくか。それが鍵になります。国内と国外の拠点で連携を強め、あらゆるお客さまに喜んでもらえるようなサービスをグローバルに提供していければと思います。

柳田 テーマパークという言葉は、経営の立場からではなく、お客さま目線で生まれたものです。テーマパークと掲げる以上は、「ここに行くとこんなサービスが受けられる」というようなものを作りたい。つまり、「SOMPOのサービスを通して自分の生活が豊かになる」「SOMPOに頼れば、生活が豊かになるための良いアイディアが生まれる」とすべてのお客さまに思ってもらえるような会社でありたいと願っています。
現在、保険会社のイメージは「事故など万が一のときに頼れる」というものだと思うのですが、そこから一歩踏み出して、お客さまの日常生活にとって、もっと身近な存在になりたいですね。
もちろん万が一のときにも頼っていただけて、さらに事故や体の不調を未然に防いだり、災害の被害を最小限に抑えたりするのにも役立つサービスを提供したいです。例えば、野原さんがおっしゃったような介護や認知症関連サービスもその一環と言えるでしょう。人生のすべての局面が豊かになるような仕掛けをお客さまのためにつくっていける会社として、これからの社会に貢献したいですね。

デイヴィス 「安心・安全・健康のテーマパーク」というテーマを実現するためには、お客さまとの信頼関係をうまく活かしていきたいですね。
私が役員会で初めて当社グループの話を聞いた際に出てきた話題が、現在「オフ」の部分を「オン」に変える、というものでした。保険を契約していただく瞬間と、万が一のときに保険が適用される瞬間はお客さまにとって「オン」になるのですが、それ以外の期間は、全くと言っていいほど保険会社とお客さまの間には接点がないのです。ただ、その期間中でもお客さまとの契約が継続しているのは、お客さまが当社グループに対する信頼、「困ったときに助けてくれる」という安心感を持ち続けてくださっているからです。せっかくならその信頼関係を活かし、お客さま自身も気づいていないような需要を「オフ」期間中に見出し、スイッチを「オン」に切り替えることができればと、期待しています。

Q4 新型コロナウイルス感染症の世界的流行はSOMPOグループの目指す姿に影響を及ぼしますか。

柳田 目指す姿そのものは変わりませんが、実現していくための方法論や手段などが変わってくるのではないかと思います。
デジタル化が必然的に加速することは間違いなく、デジタルを中心に置きながら戦略を考えていくことになるのではないでしょうか。
ただ、抽象的に「デジタルだね」と言っているだけではいけません。具体的にどれだけ実行に移せるか、会社間に相当な違いがこれから出てくるはずですので、各社の経営の本気度が試されます。そして、当社グループの経営の本気度は極めて強いです。また、経営の本気度が社員に伝わるかどうかというところも重要だと思いますが、トップが常に強いメッセージを発信していますので、それは社員に伝わるはずです。全社が一丸となって「目指す姿」に進んでいく態勢に向かっていくのではないかと思っています。

野原 もともとテーマパーク戦略というビジョンは過去から一貫していますが、世の中の出来事に応じて、都度うまく方向を変えながら、あるいはその領域を拡大しながら、明確になったところについてフォーカスしていくというように、これまでも内容はさまざまに変わっています。
ですから同じように、新型コロナウイルス感染症の感染拡大による社会の需要変化をふまえる必要はありますよね。
例えば、非対面・非接触だけれども、個別で、タイムリーで、親切なコミュニケーションをしてほしいというニーズが増えてくるはずです。お客さまとのコミュニケーション、あるいはサービス提供の仕方について考えなければいけないですし、これに応えるサービスが、新しいビジネスにもなったりするのだろうと思っています。
また、当社グループは従来から生活関連のリアルデータプラットフォームを構築すると言っていますが、生活関連のビッグデータをプラットフォーマーとして他社にも提供するでしょうし、自社でもいろいろなサービス展開をしていくと思うので、これらを、今回の世の中の変化に合わせた形にシフトするということもあると思います。

デイヴィス 私は、このテーマパーク戦略が、より求められるようになったと思います。
テーマパーク戦略では安心・安全・健康を保証する、高めるためのいろいろなサービスを提供するわけですが、そのために生活者の目線で、一人ひとりにあったライフスタイルソリューションというものを提案するということが含まれています。
もちろん「世の中のインフラが整っていれば自分の安心・安全・健康は大丈夫だろう」と、このようなソリューションの必要性を感じない方もいます。ですから、アトラクションはよいものがあるのに、なかなか当社グループのテーマパークが世の中とかみあわず、まだ活かしきれていない状況はあります。
ですが、新型コロナウイルス感染症の世界的流行によって、危機的な状況・何かの条件が欠落した状況においては、個人での対処は非常に難しいということが実感としてわかってきましたので、ソリューションの必要性を感じていなかった方も、自身や家族の安心・安全・健康の必要性を感じるようになったのではないでしょうか。
当社グループはテーマパーク実現のためのパートナーシップ、ネットワーキング構築にこの数年必死に取り組んできましたので、それが今、まさに世の中の役に立てる機会だなと思っています。

Q5 各委員会の委員長として、初年度1年間を振り返ってのご感想や評価などをお聞かせください。

柳田 指名委員会等設置会社への移行に伴って、自分自身、監査役から取締役である監査委員という立場に変わったということが一番の違いなのですが、全く違う観点で務めているのではなく、従来から監査役として持ってきた観点というのは、基本そのまま必要だと思っています。
ただ、従来の「悪い意思決定がなされないように」というこれまでの観点に「よりよい意思決定が行われるように」という観点が加わりました。ですから、これに向けて積極的な意見を述べることが求められているのだと思っています。1年を振り返って、意識はそのように変わりました。
また、新型コロナウイルス感染症の感染拡大の影響を受けて、今後の監査の仕方も工夫していく必要があるだろうと監査委員会の中でも話し合っています。従来の方法に代わるもの、場合によっては、従来以上の効果を得られる方法があるかもしれません。

デイヴィス 以前は任意として存在していた指名・報酬委員会が、指名委員会等設置会社に移行する過程で、指名委員会と報酬委員会に分かれました。
指名・報酬委員会においてフレームワークがすでにできていたこと、指名委員会と報酬委員会のメンバーをあえて同じメンバーにすることによって、輪をかけて安定した力強いスタートを切ることができました。
ガバナンスというのは約束を交わすことですが、その一番の約束事が経営戦略になります。その約束を守っていることを見せるのもガバナンスです。つまり、しかるべき約束を交わすこと、その約束を守っていくということの両面がガバナンスです。
指名委員会が飾り物ではなく、本当に生きているものになればなるほど、その約束とは何か、どのように果たすのか、しっかりと果たしているのか、いつまでに果たすのかということが議論の内容になってきます。当社グループでは、それがとても激しい勢いでこの1年間に展開されてきました。
当社グループのCEOは、ガバナンスはトランスフォーメーションを実現するために必要不可欠のものだと強い思いを持っています。その姿勢はこの1年間の指名委員会で一層鮮明になってきたと私は考えています。

野原 この1年間で報酬委員会の基礎、枠組みはうまくできたと思いますが、これがより実質的に深まるように、今後さらに努力していきたいと思っています。
当社グループにおける執行役員以上の報酬が我々報酬委員会の議論の範疇なのですが、そこだけが遊離しているわけではなく、会社全体の全社員の人事制度や評価制度、マネジメント制度、育成のシステムにもつながっていると考えています。
若い世代の人たちをどう評価して、どのように優秀な人材を見つけて、どう育てていくかということと、サクセッション・プラン、報酬制度がシームレスにつながっている必要があると思って日頃から議論しています。
社員一人ひとりのモチベーションが高い状態をどのように作るかということが、企業価値を上げることにつながると思うのです。そういう延長線上に人事制度のこともあって、そういったことをしっかりと議論した上で決めなければいけないという意味で、責任は重大だと思っています。

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