グループCEOメッセージ

課題先進国日本において企業が果たすべき役割

21世紀の今の時代を象徴するキーワードは「VUCA*」だと考えています。それは不安定で、不確実で、複雑で、曖昧な、まさに乱気流の時代です。急速なグローバル化や第4次産業革命がもたらすデジタル技術の革新によってこれまで全く手の届かなかったことが実現できるようになる一方、その負の側面とされる所得格差や機会不均等が拡大し、人々の不満がポピュリズムの台頭や自国優先主義を招き、「格差社会」や「分断社会」の問題に直面しています。また、個人情報の保護や人権についても倫理的な課題が顕在化しています。今はまさに、SDGsが志向する誰一人取り残さない包摂的で持続可能な社会の実現に向け、人類の叡智が試されています。

このことは、私が毎年参加している世界経済フォーラムの年次総会(通称:ダボス会議)でもこれまでとの大きな変化として強く感じました。2019年の統一テーマは、「グローバリゼーション4.0 - 第4次産業革命の時代に形成するグローバル・アーキテクチャー」でした。私が参加したデジタル分野のセッションでも、環境NGO、科学者、ミュージシャン、学生といった多様なメンバーが、まさに、“テクノロジーを社会・人類の幸せのためにどう活用すべきか”、“「テクノロジー」と「叡智」を上手く活用し、格差社会や分断社会などの技術革新に伴う負の側面をどう払拭していくか”について議論をしてきました。
私は、今後も社会の中心は人であり、人類のためにデジタルがあるということを忘れずに、人間とデジタルが共生する道を探ることが大切だと考えています。そして、「テクノロジー」と「叡智」という点において、日本は「テクノロジー・技術革新」がもたらす負の側面に対して最先端のソリューションを提供できる国になれると考えています。
それは、日本人が古くから社会的道徳を重んじた独特の倫理観や利他的な考えを持っているからです。例えば、東日本大震災に乗じて暴動がおこるどころか配給の列に並ぶ姿やサッカーの国際大会で負けてもゴミを持ち帰る姿は世界を驚かせています。この「日本人の精神性と社会」が日本のコア・コンピタンスになるということです。
そしてもう一つは、日本は「実世界から生じるリアルデータ」を持っているからです。リアルデータとは、医療・介護関連データや自動車の走行データ、製品の稼働データなどのことです。日本には、国民皆保険制度に基づき長年蓄積してきたデータがあり、また日本が得意としてきた「モノづくり」においても高品質な工場設備などの稼働データを持っています。バーチャルデータの分野は「GAFA」に代表されるような巨大デジタル・プラットフォーマー企業に圧倒されていますが、日本はリアルデータに基づく革新的な商品・サービスを創造することができると考えています。

私は今年の4月に経済同友会の代表幹事に就任しました。そこで強く発信しているのは国際社会のなかで日本が「いて欲しい国」だけではなく、「いなくては困る国」になるべきということです。「いて欲しい国」とは世界の人々を惹きつける魅力のある国、「いなくては困る国」とは国際社会に信頼され、課題解決のソリューションを提供できる国のことです。日本は急速に進展する少子高齢化に対する国の財政や社会保障問題、労働人口の減少など大きな課題を抱えています。これは視点を変えると、日本は今後世界が抱えることになる課題の先進国であるとも言え、日本が国際社会にソリューションを提供できるチャンスがきているととらえるべきです。
そして、日本は抱えている課題を解決するために3つのことに取り組むべきと考えています。一つ目は生産性向上に向けた企業の自己変革です。日本の労働生産性はOECD諸国の平均以 下に位置しており、これを高めなければなりません。しかし単に労働時間を短縮するのでは縮小均衡に陥ることになります。いかに付加価値を向上させるかが重要であり、そのためにはイノベーション創出が不可欠です。そしてイノベーションの創出にはモノカルチャー・同調性志向と決別し、ダイバーシティによるグッド・クラッシュ(知の衝突)が必要です。これが二つ目です。最後に、かつての日本人が持っていた価値観である、挑戦の結果としての失敗を恐れず、むしろ失敗を糧ともしうる意識を取り戻すことです。経営陣は自身の企業が「いて欲しい企業、いなくては困る企業」となるためにどうすべきか、覚悟を持って戦略を見直し俊敏に事業の姿を変えて社会課題を克服していかなければいけません。さもなければ、日本も企業も生き残れないと感じています。

  • Volatility(不安定性)、Uncertainty(不確実性)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性)の頭文字をとったもの。

当社グループの目指す姿~「安心・安全・健康のテーマパーク」~

いて欲しいSOMPO、いなくては困るSOMPOへ
何が起きるかわからない時代において、「いて欲しいSOMPO、いなくては困るSOMPO」となるためには、自分たちは「どうありたいか?どういう社会を創造したいか?それはなぜか?」を問い続け、将来の目指す姿を「想像」し、今あるべき姿を「バックキャスティング」することが重要です。また、私たちは、持続可能な社会を将来世代に引き継いでいくために、さまざまなステークホルダーと協力し社会を変革していかなければなりません。そのために「お客さまの安心・安全・健康に資する最高品質のサービスをご提供し、社会に貢献する」という経営理念のもと、当社グループが将来の目指す姿を「想像」し、従来の延長にない新しいビジネスモデルを志向し、たどり着いたのが「安心・安全・健康のテーマパーク」です。これが私たちの目指す姿であり、ぶれない信念です。

ゼロをプラスに変える「安心・安全・健康のテーマパーク」
「安心・安全・健康のテーマパーク」とは、安心・安全・健康という抽象的な概念を目に見える形に変換し、 “社会の中心である「人」の人生に寄り添い、デジタル・テクノロジーなどのあらゆる先進技術を適切に活用し、社会的課題を解決していくとともに、ひとつなぎで支えていく”存在になる、ということです。
従来の保険事業は、お客さまに事故や病気などの万が一のことが起きたときにマイナスをゼロにする、つまり現状復帰の機能を果たすビジネスです。今の健康や幸せを維持する機能や、ゼロをプラスにする機能は果たせず、さらにハッピーになりたいという要請には応えられません。
一方で、テーマパークは、行けば楽しくなる、ゼロをプラスに変えることができます。「まさかのとき」だけに機能するのではなく、商品やサービスに触れて感じることで人を幸せにできます。このようなポジティブなテーマパークを実現すること、それが経営理念である「安心・安全・健康に資する最高品質のサービスをご提供し、社会に貢献する」ことにつながると考えています。当社グループの社員にも、どうしたらお客さまがハッピーになれるか、という視点でアンテナを張り、生き生きと業務に取り組んでほしいと思います。

グループCEOとしてのミッション

「安心・安全・健康のテーマパーク」へのトランスフォーメーション
グループCEOである私のミッションは、「安心・安全・健康のテーマパーク」へのトランスフォーメーションを果たすことです。トランスフォーメーションとは、単に変わることではなく、「質的進化」を意味します。具体的に言うと、定性的には「事業ポートフォリオの変革」と「企業文化の変革」の実現、定量的には、「修正連結利益3,000億円・修正連結ROE10%の達成」です。各事業がそれぞれの魅力を徹底的に高めると同時に、グループの事業領域や収益源の多様化により事業ポートフォリオを組み替え、ミッション・ドリブン(使命ありき)、リザルト・オリエンテッド(実現志向)な企業文化へ変えていくことです。
デジタル技術の革新によってさまざまなビジネス・業界を巻き込んでデジタル・ディスラプションが起こっており、さまざまな業界が否応なくこのデジタル化の渦の中に引き込まれていきます。今までは「~業」といった業界ごとに分かれていた「縦」の関係が崩れ、デジタル化の加速がこれまで人為的に区切られてきた「業界」という垣根を一気に崩し、全く新しい事業形態を生み出しています。当社グループの中核事業である保険事業もこれらのデジタル・ディスラプションに無縁ではいられず、自動運転技術の向上や異業種による保険事業参入などによって、従来の保険を中心としたビジネスモデルに限界がくると認識しています。私たちはこうしたなか、どうやって既存ビジネスを守るのかという前提で物事を考えずに、この変化をチャンスととらえています。そのうえで、各事業の優位性のさらなる強化を前提としつつ、ERMや最適なグループ資源配分に基づくM&A戦略や新規事業開発を進め、事業のポートフォリオを変革し、大きな成長を遂げていきます。
企業文化の変革については、グループの未来の創造に対しミッション(使命)と言える強い意志を持って新しい事業やリスクに挑戦し、付加価値を創造するアウトプット主義に転換します。そのために、私は経営者として、人材の多様化を進め「グッド・クラッシュ(知の衝突)」と「融合」が起きる機会をつくっていきます。企業文化を変革すれば、事業ポートフォリオも変革することができ、必ず定量的な進化の実現にも向かっていきます。そのため企業文化の変革はとても重要であり、チャレンジングな目標です。だからこそ、単にメッセージを発信するだけでなく、すべての役職員が自分のミッションを理解し、自らのミッションとして引き受け、それを自ら語り、どのように達成するかを常に問いながら行動していく、そのような人材・組織に変化させることがグループCEOのミッションだと考えています。

トランスフォーメーションに向けて

デジタル戦略とグループシナジーの創出
トランスフォーメーションを果たすには、デジタル戦略が不可欠だと考えています。既存事業の生産性向上やさらなる進化、オープン・イノベーションの実現およびお客さまとの新たな接点の創出などはデジタルなしには語れません。また、異業種による将来的なデジタル・ディスラプションに備えるためにも、プラットフォーマーとの提携などにも先んじて取り組まなければなりません。私たちのデジタル戦略は、東京のデジタルラボをコントロールタワーとし、シリコンバレーとイスラエルのテルアビブを新しい価値を生み出すビジネス創出の最先端拠点とする3極体制を構築し、数多くの実証を進めてきました。これらを通じて「安心・安全・健康のテーマパーク」の実現に向けたトランスフォーメーションを加速させることができると確信しています。
そして、「安心・安全・健康のテーマパーク」が生み出す価値は、国内損保、海外保険、国内生保、介護・ヘルスケアという4つの各事業が提供する商品・サービスの足し算ではなく、すべてを組み合わせて生まれる「ソリューション」として、お客さまに感じていただくものです。そのための鍵がデジタル戦略とリアルデータです。当社グループは、保険事業や介護事業を基盤とし、お客さまへのサービス提供を通じて日々積み重ねた膨大かつリアルなデータを持っています。こうしたデータを最大限に生かし、デジタル戦略のもと4つの事業が相互に連鎖し、グループ横断で新しい価値のある、そして社会が求める商品・サービスを展開することによって、当社グループにしかできない強みを発揮できると考えています。

また、認知症への取組みはグループシナジーのひとつの事例です。当社グループは、2015年から介護事業に本格参入したことで、介護マーケットにおける需給ギャップ、高齢運転者による事故、長生きに伴うファイナンスリスクなど、超高齢社会に伴うさまざまな社会的課題の深刻さを改めて認識しました。これらの社会的課題のなかで、介護マーケットにおける需要サイドからの課題解決や長寿社会に伴う認知症への不安の解消および健康寿命の延伸などを目指し、介護事業だけでなく国内損保、国内生保がグループ横断で認知症への取組みを開始しました。
認知症は、まだ抜本的な治療薬が開発されていない難しい領域ではありますが、高齢化が進む日本においては身近で、誰にとっても他人事とは言えない課題であると言えます。ファイナンスとリスクへの備えである保険事業と、介護事業を持つ当社グループだからこそ、総合的に認知症に対して独自のソリューション提供が可能であり、認知症への取組みを通じて社会的課題の解決に果敢に挑戦し、高齢者・認知症の方々の尊厳を守り、偏見や差別のない社会を創っていくことを目指しています。日本は世界で最初に超高齢社会の課題に直面する課題先進国です。「認知症に備える・なってもその人らしく生きられる社会」を構築することで課題解決に貢献し、「誰一人として取り残さない」社会の実現に貢献したいと考えています。

このように、当社グループが果たすべき役割も進化していくなかで、当社グループは今まで以上に「社会的課題の解決」や「持続可能な社会への貢献」を強く意識し、多様なステークホルダーの声を取り入れ、「安心・安全・健康のテーマパーク」の実現に取り組んでいきます。

グループ・ガバナンス体制の変革
「安心・安全・健康のテーマパーク」の実現に向けては、事業のグローバル化や安心・安全・健康に資する多様な事業・サービス展開を支える経営体制をさらに強固なものとすることも必要となります。
当社グループは、これまで指名・報酬委員会などを有するハイブリッド型の会社機関設計と運営、事業オーナー制(2016年度)、グループ・チーフオフィサー(CxO)制(2017年度)、海外保険事業のプラットフォーム構築(2017年度)、介護事業会社の統合(2018年度)など、グループ経営体制の強化に向けて着実に取組みを進めてきました。いよいよ次のステージを目指すことができる経験や執行体制の整備が整ってきたと判断し、4月に「Global Executive Committee(以下、GlobalExCo)」および「経営執行協議会(MAC:Managerial Administrative Committee)」を新設するとともに、今年の6月に「監査役会設置会社」から「指名委員会等設置会社」に移行し、グループの目指す姿の実現に向け、より迅速に意思決定し、能動的に実行するグループ・ガバナンス体制を構築しました。この変革によって取締役会から執行部門へ大幅な権限委譲がなされ、各自がミッションを明確化し、結果を出すことが徹底して求められるようになります。一方で、社外取締役を中心とした取締役会が十分な監督機能を果たすべく、ガバナンス体制の強化を図っていきます。

グローバル経営体制の実現
グローバル経営体制の鍵は、グループCEOの諮問機関として設置した「Global ExCo」が握っています。本会議は、日本人を中心に幅広いテーマを議論するこれまでの経営会議のあり方を見直し、海外の役員も含めたメンバーでグループ全体の戦略や方針など、グループの重要課題に絞って集中討議を行う、執行部門の最高位の会議体であり、当社海外保険事業オーナーと海外M&A統括を務める2人の外国人メンバーを含む、事業トップら10人で構成されています。海外実務に精通し、事業に肌感覚があるトップに経営論議へ参加してもらうことで、グローバルな視点でベストな方法や仕組みを共有し、資源配分なども決めていきます。保険だけでなく世界中の情報が集まり、意思決定する、このような会議体は世界でも例がないと思います。今年の4月に初めてのGlobal ExCoを開催しましたが、「虚心坦懐」、「グループベスト」、「事実にもとづく」の3つの心構えを基本として、「グッド・クラッシュ」を恐れない議論を行いました。私はこのGlobal ExCoを起点に、グループ執行のトップ層のあり方が変わり、グループ全体でスピーディーな意思決定と迅速な実行により、トランスフォーメーションを早期に実現する手ごたえを感じています。

中期経営計画の進捗と2021年度以降の目指す姿

現中期経営計画は、前半の3年間が経過しましたが、「安心・安全・健康のテーマパーク」の実現に向けた基盤づくりが着実に進展しました。経営数値の面では、2017・2018年度は大きな自然災害が複数発生した影響を色濃く受けましたが、こういった自然災害の影響を除けば、高水準の利益・ROEを達成しており、グループの収益性や資本効率は着実に強化してきています。また、海外保険事業の拡大などによるリスク分散効果拡大や再保険スキームの最適化といった収益の安定性向上の取組みに加え、今後は気候変動による影響の分析を高度化し、グループの自然災害リスクに対する、より効率的な軽減策を実行していきます。
2019年度からの後半計画では、消費増税や民法(債権法)改正などの外部環境による下押し要因がありますが、各事業の生産性の向上や商品ポートフォリオの最適化などを通じた事業基盤強化により、2020年度の修正連結利益は2,050億円~2,150億円、修正連結ROEは8%程度をターゲットとしています。そのうえで、さらに強靭な事業基盤を築くことにより、次期中計以降で飛躍的な成長軌道にシフトチェンジし、2020年代の早期に、修正連結利益3,000億円水準、修正連結ROE10%以上を達成することを目指します。その際には、国内と海外のウエイトが6:4程度とバランスのとれた事業ポートフォリオとなることを想定しています。そして、私たちは保険事業の枠組みを超え、大きく変革していきます。

  • 1 現在の修正利益定義をベースとした試算値
  • 2 SOMPOホールディングス発足年
  • 修正連結利益・修正連結ROEについては、こちらをご覧ください。

最後に

これまで誰も成し遂げたことのない変革の先に、「安心・安全・健康のテーマパーク」という新たな価値創造があります。社会のなかで私たちはすべてのステークホルダーの皆さまとの対話と協働を重ね、持続可能な社会への変革に向け、その中で「いて欲しいSOMPO、いなくては困るSOMPO」になるため、グループ・社員が一体となり、当事者意識を持って行動し、グループのトランスフォーメーションを進めていきます。
皆さまからの一層のご支援を賜りますよう、よろしくお願いいたします。

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