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TCFD・TNFD提言への対応

SOMPOにおけるTCFD・TNFDの考え方

当社グループは、人々の安心・安全・健康な生活に脅威をもたらす気候変動を重要な取組み課題と位置づけ、課題解決に向けた取組みを行っております。取組み方針として「SOMPO気候アクション」を掲げ、グループ全体で戦略的に取組みを進めるとともに、TCFD提言に基づく気候関連財務情報開示に取り組んでおります。
また、近年、生物多様性の喪失が重要な社会課題として認知されており、当社グループはこれまで行ってきた生物多様性保全の取組みをさらに推進するとともに、TNFD提言に基づく自然関連財務情報開示にも取り組んでおります。

1. ガバナンス

(1)取締役会の役割

当社グループは、「“安心・安全・健康”であふれる未来へ」をパーパスとして定めております。
取締役会は、グループ全体の戦略や方針を定めるとともに、パーパス実現に向けた執行役および執行役員の業務遂行状況を監督する役割を担っております。

(2)執行役・執行役員の役割

グループCSuO(Chief Sustainability Officer)は、サステナビリティ領域の最高責任者として、パーパス浸透とサステナビリティの推進を通じたブランド価値向上戦略、サステナブル経営戦略の策定・実行を担っております。グループCSuOの役割のうち気候変動・生物多様性をはじめとするグループのサステナブル経営戦略については、グループ各社のCSuO(サステナビリティの統括責任者を含む)およびCSOから構成される「グループサステナブル経営推進協議会」において、関連するリスクと機会の状況を踏まえてこれらへの対応について協議することで、グループCSuOの意思決定を支援するなど、グループ全体のサステナビリティ推進体制を構築しております。
また、グループCSuOの業務執行のサポート機能としてサステナブル経営推進部を設置しております。気候変動・生物多様性戦略やその遂行状況については、グループCEOの諮問機関であるグループ執行会議において経営議論・報告されており、これらが四半期ごとに取締役会に報告されております。

「グループサステナブル経営推進協議会」の下部には、「気候変動ワーキンググループ」を設置しており、気候変動に関連する保険引受および資産運用の課題や企業価値向上の実現に向けて実務者レベルで協議を行っております。生物多様性に関しては、リスクと機会の精査が企業価値向上に貢献しうると考え、本ワーキンググループ内で協議を進めております。
リスク管理については、取締役会が定める「SOMPOグループERM基本方針」に基づいてリスクコントロールシステムを構築しております。グループCRO(Chief Risk Officer)は、各事業の抱えるリスクを網羅的に把握・評価し、そのうち当社グループに重大な影響を及ぼす可能性がある重大リスクについては、グループ執行会議の下部組織であるグループERM委員会においてコントロールの状況を確認・議論したうえで、定期的に取締役会、グループ執行会議または関連役員会議などに報告しております。

<サステナブル経営の推進体制>

サステナブル経営の推進体制

(3)ステークホルダー・エンゲージメントの監督

当社グループは、未来に向けた対話を通じてステークホルダーと積極的にかかわりあいながら、高い倫理観のもと国際的な行動規範を尊重し、気候変動や生物多様性などの環境問題、人権やダイバーシティ・エクイティ&インクルージョン、地域社会への配慮などを自らの事業プロセスに積極的に組み込むとともに、社会に対して透明性の高い情報を積極的かつ公正に開示していくことを定めたグループ環境ポリシーを制定しております。
また、当社グループの事業活動においては、保険引受および資産運用を通じて地域住民・先住民・将来世代の権利侵害を引き起こしかねないことから、多種多様なステークホルダーを対象に人権リスク評価を実施し、「グループ人間尊重ポリシー」を定めております。人権リスク評価では、保険引受先や投融資先の企業などがプロジェクトや事業を実施している地域におけるリスクを確認しており、優先度が高い人権リスクに関しては、リスク軽減の取組み(保険引受先や投融資先の企業などへのエンゲージメント)を行ってまいります。
環境問題に関するステークホルダー・エンゲージメントに関しても、「グループサステナブル経営推進協議会」において対応を協議し、その遂行状況については、グループ執行会議において経営議論・報告の上、四半期ごとに取締役会に報告され、取締役会において監督されております。

2.戦略

(1)気候関連の戦略

当社グループでは、気候変動リスク・機会に対し複合的なアプローチを実践するため、2021年度より「SOMPO気候アクション」(気候変動への「適応」、「緩和」、「社会のトランスフォーメーションへの貢献」)を掲げ、グループ全体で戦略的に取組みを進めております。

(1) 1. 気候関連のリスクと機会

気候変動の進展による自然災害の激甚化や発生頻度の上昇、干ばつや慢性的な海面水位の上昇などの「物理的リスク」のみならず、脱炭素社会への転換に向けた法規制の強化や新技術の進展が産業構造や市場の変化をもたらし、企業の財務やレピュテーションにさまざまな影響を与える「移行リスク」が顕在化する可能性があります。また、これらのリスクに付随して、企業の事業活動に起因する気候変動の影響や炭素集約度の高い事業への投資、不適切な開示などによる法的責任を追及する気候変動訴訟が米国を中心にグローバルに増加しており、当社の損害保険事業における賠償責任保険の支払保険金を増大させる可能性があります(「賠償責任リスク」)。一方で、自然災害リスクの認識の高まりや社会構造の変革は、新たなサービス需要の創出や技術革新などのビジネス機会をもたらします。
当社グループは、IPCC(気候変動に関する政府間パネル)、NGFS(気候変動リスクなどに係る金融当局ネットワーク)など外部機関の研究成果を踏まえて、気候変動が事業に与えるリスクと機会を整理し、短期(2~3年以内)、中期(5~10年後:2030年頃)および長期(10~30年後:2050年頃)の時間軸において、保険事業のバリューチェーン全体(上流:商品・サービス開発、中流:販売・営業・資産運用、下流:事故対応・保険金支払い)を対象範囲として評価・分析・対応を進めております。気候変動による物理的リスク、移行リスクに伴う主な変化と、当社グループにとって重大な影響を及ぼすと想定されるリスクと機会は下表のとおりであり、内外環境の変化をふまえて継続的に見直しを行っております。

(1) 2. シナリオ分析

ア.物理的リスク

当社グループの損害保険事業は、台風や洪水、高潮などを含む自然災害の激甚化や発生頻度の上昇に伴う想定以上の保険金の支払いによる財務的影響を受ける可能性があります。リスクの定量的な把握に向けては、2018年以降、大学などの研究機関と連携することで科学的知見を踏まえた取組みを進めており、「アンサンブル気候予測データベース:d4PDF*1(database for Policy Decision making for Future climate change)」などの気象・気候ビッグデータを用いた大規模分析によって、台風や洪水、海面水位の変化の影響を受ける高潮の平均的な傾向変化や極端災害の発生傾向について、平均気温が上昇した気候下での長期的な影響を把握するための取組みを行っております。また、5~10年後の中期的な影響を分析・評価し事業戦略に活用しております。

当社グループは、国連環境計画・金融イニシアティブ(UNEP FI)のTCFD保険ワーキンググループに参画し、同ワーキンググループが2021年1月に公表したガイダンスに基づく簡易な定量分析ツール*2を用いた台風に関する影響度の試算を行っております。気候変動リスクへの金融監督上の対応を検討するNGFS(気候変動リスクなどに係る金融当局ネットワーク)が検討を行っているシナリオ分析の枠組みも活用して、引き続き分析を進めてまいります。

<試算結果>
台風の発生頻度 約△30%~+30%
1台風あたりの損害額 約+10%~+50%

また、北米ハリケーンや欧州洪水など海外の自然災害に関しては、外部のリスクモデル会社や研究機関などとの提携を通じて気候変動による影響分析を進めており、保険料率算出や集積管理への活用を検討しております。

*1文部科学省の気候変動リスク情報創生プログラムにて開発されたアンサンブル気候予測データベースです。多数の実験例(アンサンブル)を活用することで、台風や集中豪雨などの極端現象の将来変化を確率的にかつ高精度に評価し、気候変化による自然災害がもたらす未来社会への影響についても確度の高い結論を導くことができます。

*2IPCC(Intergovernmental Panel on Climate Change:国連気候変動に関する政府間パネル)第5次評価報告書のRCP8.5シナリオに基づき、2050年と現在との間の台風の発生頻度や風速の変化を捉え、頻度や損害額の変化を算出するモデル。

イ.移行リスク

脱炭素社会への移行が短期・中期・長期それぞれにおいて、当社グループに及ぼすインパクトを把握するため、下表のNGFSシナリオ*3を前提に、脱炭素社会への転換に向けた法規制の強化や世界経済の変化が企業に及ぼす「政策リスク」と気候変動の緩和や適応に向けた取組みによる「技術機会」についてMSCI社が提供するClimate Value-at-Risk(CVaR)*4を用いて、当社グループの保有資産に及ぼす影響を分析しております。詳細は、以下「(ア) Climate Value-at-Risk(CVaR)」をご参照ください。

加えて、移行リスク削減に向け、脱炭素化への取組みが進んでいない企業への働きかけを促進することが重要であることから、同社が提供するImplied Temperature Rise(ITR)*5を用いて、当社グループの投資先企業が2100年度までに1.5℃の温暖化に抑える目標と整合的なGHG排出量削減目標を設定しているのかを定量的に分析しております。詳細は、以下「(イ) Implied Temperature Rise(ITR)」をご参照ください。

*3NGFS(気候変動リスクなどに係る金融当局ネットワーク)シナリオ
NGFSがフェーズ4として2023年11月に公表している気候変動シナリオであり、Delayed transition、Net Zero 2050、NDCsの3シナリオを分析。

カテゴリー シナリオ 概要
(1)Disorderly
(無秩序)
Delayed transition
(遅延移行)
2030年まで年間排出量が減少しない。温暖化を2℃に抑えるには強力な政策が必要。CO2除去は限定的。
(2)Orderly
(秩序的)
Net Zero 2050
(2050ネットゼロ)
厳格な排出削減政策とイノベーションにより、地球温暖化を1.5℃に抑制し、2050年頃に世界のCO2排出量を正味ゼロにすることを目指す。米国、EU、日本などの一部の国では、すべてGHGについてネットゼロを達成。
(3)Hot House World
(温暖化進行)
Nationally Determined Contributions(NDCs)
(国別目標)
各国が約束したすべての政策が実施されるシナリオ。(まだ実施されていない場合でも、すべての誓約された政策が含まれるが、地球温暖化を食い止めるには不十分なシナリオ)

*4Climate Value-at-Risk (CVaR)

  • 気候変動に伴う政策の変化や災害による企業価値への影響を測定する手法の一つ。
  • 気候変動関連のリスクと機会から生じるコストと利益の将来価値を現在価値に割り引いたものであり、当社グループの資産運用ポートフォリオにおける各銘柄の保有時価ウェイトを考慮し、2023年3月末時点における影響度を算出。

*5Implied Temperature Rise(ITR)

  • 2100年までに2℃、1.5℃の温暖化をもたらす可能性の程度を、度数(℃)で評価するフォワードルッキングな評価手法の一つ。
  • 投資先企業のGHG予測排出量(足元の排出量および企業が設定した削減目標をもとに算出)とカーボンバジェットの差分をもとに温度上昇への寄与度を表したものであり、当社グループの資産運用ポートフォリオにおける各銘柄の保有時価ウェイトを考慮し、2023年3月末時点における影響度を算出。
(ア) Climate Value-at-Risk(CVaR)
(NGFSシナリオ‐保有資産別比較)

すべての資産において、影響度はNet Zero 2050(1.5℃)シナリオが最大となり、1.5℃目標を達成するには、秩序だった移行であっても、政策リスクが大きいことが分かります。また、保有資産別の比較では、政策リスク、技術機会の影響はいずれも国内株式が最大となり、Net Zero 2050(1.5℃)シナリオ下においてそれぞれ△37.3%、7.3%となります。株式と債券を比較すると、債券は額面以上で償還されることはなく、政策リスクと機会の影響が限定的であるため、株式の影響が大きいことが分かります。

<当社グループ 資産別・NGFSシナリオ別 政策リスクと技術機会のCVaR分析結果>

当社グループ 資産別・NGFSシナリオ別 政策リスクと技術機会のCVaR分析結果

・政策リスク: GHG削減目標を達成するために必要となる費用をスコープ1、2、3と段階ごとに算出した数値
・技術機会: 低炭素経済への移行を背景に、企業が保有する環境関連技術が生み出す事業機会のポテンシャルを算出した数値
(NGFSシナリオ‐短期・中期・長期のTime Horizon別比較)

短期・中期・長期のTime Horizon別の比較では、当社ポートフォリオにおいて、現在のコストの大部分は長期(2030 年から2050 年の間)に顕在化することが分かります。特に、Delayed transition(2℃)(Disorderly:脱炭素への急激な移行)シナリオでは2030年以降に急激な政策移行が想定されていることから、長期影響が顕著に現れます。また、政策リスクはNet Zero 2050(1.5℃)シナリオが△18.52%と最大となり、1.5℃目標を達成するには、秩序だった移行であっても、政策リスクが長期的にも大きいことが分かります。

<当社グループ Time Horizon別 政策リスクと技術機会のCVaR分析結果>

当社グループ Time Horizon別 政策リスクと技術機会のCVaR分析結果

(イ) Implied Temperature Rise(ITR)

ITRが2℃未満の企業の割合は、国内株式、外国株式、国内社債、外国社債ポートフォリオの時価ベースでそれぞれ56%、97%、67%、83%、ITRが1.5℃未満の企業の割合は、39%、95%、48%、68%となっており、国内株式以外はパリ協定で掲げる「1.5℃目標」と整合的な企業が過半数を占めております。一方で、ポートフォリオ全体では、国内株式、外国株式、国内社債、外国社債のITRはそれぞれ2.12℃、2.10℃、2.14℃、2.28℃と、1.5℃を超えております。当社グループではこれらの分析結果を活用し、移行リスクの高い企業やGHG排出量目標設定がない投資先企業へのエンゲージメントなどの働きかけを通じて移行リスクの削減を進めてまいります。

<当社グループ 資産別 ITR分析結果>

当社グループ 資産別 ITR分析結果

出典:『MSCI Climate Value-at-Risk、Implied Temperature Rise』を用いてSOMPOホールディングス作成

(補足)本レポートには、MSCI Inc.、その関連会社、情報提供者(以下「MSCI関係者」)から提供された情報(以下「情報」)が含まれており、スコアの算出、格付け、内部使用にのみ使用されている場合があり、いかなる形態でも複製/再販したり、金融商品や指数の基礎または構成要素として使用することはできません。MSCI関係者は、本レポートに掲載されているデータまたは情報の正確性および完全性を保証するものではなく、商品性および特定目的への適合性を含め、すべての明示または黙示の保証を明示的に否認します。MSCI関係者は、本レポートのデータまたは本情報に関連する誤りや脱落、あるいは直接的、間接的、仕様的(利益損失を含む)な損害について、たとえその可能性を通知されていたとしても、いかなる責任も負うものではありません。

(1) 3.レジリエンス向上の取組み

ア.リスクへの対応

<物理的リスク>
損害保険契約や再保険契約は短期契約が中心であり、激甚化する気象災害の発生傾向をふまえた保険引受条件や再保険方針の見直しによって、保険金支払いが想定以上となるリスクの抑制が可能であります。また、グローバルな地理的分散や短期・中期の気候予測に基づく定量化、 長期的なシナリオ分析による重大リスクの特定・評価などの多角的なアプローチにより、物理的リスクに対するレジリエンスの確保を図っております。

<移行リスク>
自社の温室効果ガス(GHG)排出量削減については、スコープ1,2,3(除く保険引受・投融資)で2030年60%削減(2017年比)*、2050年実質排出ゼロにする目標を掲げております。その実現に向け、GHG排出において特に占める割合の大きい電力に関して、LED化などの省エネへの取組みに加え、「2030年までに再生可能エネルギー導入率70%」の目標を掲げ、所有ビルの電力を再生可能エネルギー由来に切り替えるなど、目標達成に向けたロードマップに沿って着実に取組みを進めております。

  • パリ協定の1.5℃目標水準(毎年4.2%以上削減)に整合する科学的根拠に基づく目標。

投融資については、公社債の満期償還時にGHG高排出セクターから低排出セクターへの入れ替え促進や、株式保有先のうちGHG高排出の上位20社を中心とするエンゲージメントの強化により、資産運用ポートフォリオにおけるGHG排出量を2025年までに2019年比で25%削減する目標を掲げ、移行リスク軽減に取り組んでおります。

イ.機会への対応

当社グループは、気候リスクコンサルティングサービスの開発・提供、保険商品・サービスを通じた自然災害レジリエンスの向上に取り組む他、再生可能エネルギーの普及や取引先との協業によるカーボンニュートラルに貢献する保険商品・サービスの開発・提供に取り組んでおります。

保険引受については、ソリューションプロバイダーとして社会のグリーン移行へ貢献することを目的に2024年度に脱炭素に資する保険商品を対象としたトランジション保険目標を新たに掲げております。また、2022年11月に金融向け炭素会計パートナーシップ(PCAF)が開発した企業保険分野のGHG排出量を計測する手法を用いて、保険引受先でGHG排出量(スコープ1,2)を開示している企業のデータを活用し、保険引受におけるGHG排出量の算定を行っております。

また、損保ジャパンでは、日本版スチュワードシップ・コードの趣旨に則り、株式を保有する企業の企業価値向上および持続的成長に関する取組方針と状況を確認するために、毎年ESGアンケート(「ESG/サステナビリティへの取り組みに関する調査」)を実施しております。2023年度は株式を保有する1,446社にアンケートを送付し、318社から回答が得られ、各企業側のニーズの把握・協業の機会につなげ、脱炭素を含めたサステナビリティへの取組みを支援しております。

さらに、ネットゼロ社会の実現に向けて、世界の様々なイニシアティブや団体などにおいて、規制やガイダンス策定などの議論が活発に行われております。当社グループでは、これらのルールメイキングに対して積極的に関与しリードすることにより、社会のトランスフォーメーションに貢献するとともに、これらの取組みを通じた知見の蓄積やレピュテーションの向上によってパートナーを呼び込むなどグループのビジネス機会の創出・拡大を図ってまいります。

(2)自然関連の戦略

気候変動に加え、生物多様性の喪失と生態系の崩壊、天然資源不足といった自然に関連する環境問題がグローバルリスクとして認識されるようになってきております。当社グループの保険引受先や投融資先の企業では、自然への依存・影響に伴い、将来的に原材料調達や操業の不安定化、法規制などの対応コストの増加、売上減少といったリスクがあります。その結果、保険引受の減少や保険金支払いの増加など、当社グループの損害保険事業のリスクに転換される可能性があります。
一方で、昆明・モントリオール生物多様性枠組で提唱されたネイチャーポジティブへの移行にあたっては、日本では2030年時点で約47兆円の事業機会が創出されると見込まれております(環境省推計)。このような状況は、保険引受先や投融資先の企業の業績改善や、当社グループが自然に貢献する製品・サービスを提供することによる機会獲得にもつながる可能性があります。
これらの自然関連のリスク・機会の特定および評価にあたっては、当社グループの主要事業である国内損害保険事業(損保ジャパン)およびコンサルティング事業(SOMPOリスクマネジメント)を対象に、TNFDが提言するLEAP*アプローチに基づき、評価・分析・対応を進めております。

保険引受、投資している企業の例 フロー図

  • LEAP(Locate, Evaluate, Assess, Prepare の頭文字)と呼ばれる自然関連のリスクと機会の管理のための統合評価プロセス

(2) 1. 優先地域の特定

当社グループにおける優先地域を特定するため、生態系の完全性、生物多様性の重要性、水リスク、生態系サービスの提供の重要性の観点から、要注意地域に当社グループ拠点が関係していないかを、WWF Biodiversity Risk Filter*などにより確認しております。
損保ジャパンおよびSOMPOリスクマネジメントの拠点は、主に日本国内に位置しており、そのほかカナダ(トロント)、ロシア(モスクワ)、オーストラリア(シドニー)、グアム、ベトナム(ホーチミン、ハノイ)、ミャンマー(ヤンゴン)、カンボジア(プノンペン)、インド(ムンバイ)、アラブ首長国連邦(ドバイ)、南アフリカ共和国(ヨハネスブルグ)に位置しております。
これらの拠点は、いずれも要注意地域ではなく、また、事業活動(国内損害保険事業、コンサルティング事業)において自然への依存・影響は小さいことから、損保ジャパンおよびSOMPOリスクマネジメントの拠点では優先地域はないと考えております。

  • 世界自然保護基金が開発した、企業が自社のビジネスやサプライチェーン等において生物多様性に影響を及ぼすリスクを評価・対応するためのツール

(2) 2. 依存・影響の特定・評価

保険引受先や投融資先のセクターにおける依存・影響を特定・評価し、保険引受・投融資の取引金額を考慮することで、損保ジャパンにおける高リスクセクターを特定しております。
具体的には、以下の手順で実施しております。

1) ENCORE*を用いて各セクターの依存・影響の項目、大きさをヒートマップ化

2) 1)に損保ジャパンの保険引受、投融資の金額を反映

3) 保険引受および投融資ごとに、損保ジャパンにおける依存・影響ヒートマップを作成

  • 自然資本金融同盟 (Natural Capital Finance Alliance (NCFA)) や国連環境計画世界自然保全モニタリングセンター (UNEP-WCMC) などが共同開発した自然関連リスク評価ツール

<保険引受>
保険引受においては、以下のとおり、依存・影響が大きい高リスクセクターを特定し、当社グループにおけるリスク源として考慮しています。

■依存
輸送サービスでの「気候調節」、サービス業などでの「地下水」「地表水」への依存が大きいと評価しております。

保険引受(依存)

凡例: 5 = 極大、 4 = 大、 3 = 中、 2 = 小、 1 = 極小

■影響
化学およびその他の素材製造での「水利用」、土地開発と建設での「陸上/海洋生態系の利用」、不動産での「陸上生態系の利用」、輸送サービスでの「淡水/海洋生態系の利用」、サービス業などでの「水利用」「GHG排出」「水/土壌汚染」「固形廃棄物」の影響が大きいと評価しております。

保険引受(影響)

凡例: 5 = 極大、 4 = 大、 3 = 中、 2 = 小、 1 = 極小

<投融資>
投融資においては、以下のとおり、依存・影響が大きい高リスクセクターを特定し、当社グループにおけるリスク源として考慮しています。

■依存
石油・ガス・金属・鉱業での「地下水」、輸送サービスでの「気候調節」、加工食品・飲料製造での「地下水」「地表水」への依存が大きいと評価しております。

投融資(依存)

凡例: 5 = 極大、 4 = 大、 3 = 中、 2 = 小、 1 = 極小

■影響
石油・ガス・金属・鉱業での「水利用」「陸上/淡水/海洋生態系の利用」、化学およびその他の素材製造での「水利用」、輸送サービスでの「淡水/海洋生態系の利用」、不動産での「陸上生態系の利用」の影響が大きいと評価しております。

投融資(影響)

凡例: 5 = 極大、 4 = 大、 3 = 中、 2 = 小、 1 = 極小

(2) 3. リスク・機会の特定・評価

生態系サービスの劣化に伴う物理的リスクと機会、ネイチャーポジティブに向けた政策・法規制の強化、技術の進展、市場選好の変化に伴う移行リスクと機会について、当社グループでは、保険事業を中心にバリューチェーン全体(上流:商品・サービス開発、中流:販売・営業・資産運用、下流:事故対応・保険金支払い)を対象範囲として、評価・分析・対応を進めております。評価の時間軸としては短期(2~3年以内)、中期(5~10年後:2030年頃)および長期(10~30年後:2050年頃)を設定しております。自然関連の主な環境変化と、当社グループにとって重大な影響を及ぼすと想定されるリスクと機会は下表のとおりですが、内外環境の変化を踏まえて継続的に見直しを行ってまいります。

リスク・機会の特定・評価

3.リスク管理

当社グループは、グループのパーパスおよび経営計画における目指す姿の実現に向けて、その達成確度を高めるためにリスクアペタイトフレームワークを構築し、「取るリスク」、「回避するリスク」を明確にしております。
自然災害リスクについても、リスクアペタイトを明確化するとともに、自然災害が発生した場合に想定される保険金支払いを気象学などの科学的知見や当社商品特性を踏まえて定量的に把握したうえで、財務健全性や収益性、利益安定性への影響、再保険マーケットの動向などをふまえて、再保険方針およびグループ全体のリスク保有戦略を策定し、管理しております。
気候変動リスクは、戦略的リスク経営(ERM)のリスクコントロールシステムの重大リスク管理、自己資本管理、ストレステスト、リミット管理、流動性リスク管理の枠組みにおいて、多角的なアプローチでコントロールしております。

当社グループは、「SOMPO気候アクション」の実践として気候変動リスクフレームワークを通じた短期・中期・長期の気候関連のリスクと機会の評価、これらに基づくシナリオ分析(物理的リスク・移行リスク)を実施するとともに、これらのリスクと機会へのレジリエンス向上を高めるための各種の取組みを行っております。

(1)気候変動リスクフレームワーク(気候変動リスクの特定、評価および管理)

自然災害リスクを含む気候変動リスクに関しては、気候変動が保険事業以外を含めた当社グループの事業のさまざまな面に影響を及ぼすこと、その影響が長期にわたり、不確実性が高いことをふまえて、既存のリスクコントロールシステムを補完し、長期的な気候変動がさまざまな波及経路を通じて当社グループに影響を及ぼすシナリオを深く考察してリスクを特定・評価および管理するための気候変動リスクフレームワークを構築しております。
気候変動リスクフレームワークでは、気候変動の複雑な影響を捕捉するために、以下の3ステップで評価を行い、「2.戦略 (1)気候関連の戦略 (1)1. 気候関連のリスクと機会」で述べたリスクと機会を整理しております。

気候変動リスクフレームワーク

リスク評価にあたり、平均気温の変化を示すIPCCのシナリオと政策移行を示すNGFSのシナリオを組み合わせた「低位」「中位」「高位」の3つの環境変化のパターン(下表「環境変化のパターン」)を選定しました。また、当社に及ぼす影響の波及経路・内容をシナリオで想定したうえで(下図「リスクの波及経路と影響内容のシナリオ(例)」、パターンごとにリスクを評価しております。

<表:環境変化のパターン(低位・中位・高位)>
IPCC NGFS
低位 SSP1-1.9 Orderly / Net Zero 2050
中位 SSP2-4.5 Disorderly / Delayed Transition
高位 SSP5-8.5 Hot House World / Current Policy、Nationally Determined Contributions(NDCs)

<リスクの波及経路と影響内容のシナリオ(例)>

アセスメント結果を踏まえて継続的なモニタリングが必要なリスクは「気候変動リスクマップ」として可視化し、主に保険引受および資産運用に影響を与えるリスクの影響度、可能性、発現時期、傾向などを俯瞰することで、取締役会および執行の諸機関における気候変動に関する議論の活発化を図っております。

<気候変動リスクマップ(中位SSP-2-4.5/Disorderly)>

(2)その他のリスク

アセスメントに用いたシナリオは保険引受と資産運用についてでしたが、「訴訟などの法的な影響」については保険引受・資産運用以外の当社事業活動に影響を与える可能性があると考えております。リスク評価における影響度・可能性はそれぞれ中程度相当と想定しており、引き続き情報収集および分析を行い、リスクの把握に努めてまいります。

発生の原因 当社への影響
訴訟などのリスク 気候変動に対する取組みの遅れや不適切な情報開示 当社自身に対して賠償請求訴訟が起こされる、など
  • 保険引受・資産運用以外の当社事業へのリスク。なお、保険引受や資産運用への影響についてはアセスメントを実施。

(3)既存のリスク管理フレームワークとの統合

気候変動リスクフレームワークで捉えたリスクの認識は、重大リスクの「主な想定シナリオ」に反映して管理を行い、また、気候変動との間で相互に影響を与える事象である「生物多様性の喪失」はエマージングリスクとして分析を行っております。(下表)

気候変動に関連する重大リスクなどと主な想定シナリオ
重大リスク・
エマージングリスク
気候変動に関連する主な想定シナリオ
気候変動リスク
(物理的リスク)
台風・ハリケーンの激甚化または頻度増加による火災保険などの保険金支払い、再保険コストの増大
気候変動リスク
(移行リスク)
脱炭素に向けた政策・法規制の強化、技術革新の進展による株式・債券の価格変動など
事業中断リスク 想定シナリオを超える大規模自然災害などの発生に伴う重要業務停止の長期化、人命被害など
パンデミック 森林減少や永久凍土の融解による重大な新興感染症パンデミックの発生増加
生物多様性の喪失リスク 気候変動に伴う生態系の破壊などにより生物多様性が毀損、農作物の生育などに悪影響が及ぶ、緩和策へのマイナスの影響につながり、気象災害の激甚化・頻発化を加速し、減災機能の低下を招く

また、気候変動リスクフレームワークを通じて得られた知見を、既存のリスクコントロールシステムの枠組みである自己資本管理、ストレステスト、リミット管理、流動性リスク管理に反映させていくことで、リスク管理全体の高度化を図ってまいります。

4.指標と目標

(1)リスクと機会を評価するための指標

当社グループは、SOMPO気候アクションの実践が、当社グループにとってのリスク低減と新たなビジネス機会の獲得につながるとの認識のもと、以下の指標を用いた評価を行っております。また、自然関連の指標に関してもTNFDフレームワークにおけるグローバル中核開示指標を参照し、評価を進めてまいります。

項目*1 単位 2023年度
実績*2
TNFDグローバル開示指標
自然変化の要因 指標
GHG排出量
(スコープ1,2,3 ※除く保険引受・投融資)
t-CO2e 306,876 気候変動 GHG排出量
GHG排出量
(スコープ3カテゴリー15 投融資)*3*4
株式 t-CO2e 867,087
社債 t-CO2e 776,074
合計 t-CO2e 1,643,161
加重平均炭素強度(WACI)
(スコープ3カテゴリー15 投融資)*5
株式 t-CO2e/
百万米ドル
115.25
社債 t-CO2e/
百万米ドル
128.13
再生可能エネルギーの
導入率
% 9.0
電力使用量 kWh 315,184,001
紙使用量 t 10,863 資源の利用・
補充
陸上・海洋・淡水から調達されるリスクの高い天然資源の量
生物多様性保全活動・
環境教育への参加人数
9,617
管理/運営している
総表面積(延べ床面積)
m2 1,381,037 陸上・淡水・
海洋利用の変化
空間フットプリントの合計
排水量(下水使用量) kℓ 4,155,566 汚染・汚染除去 排水
廃棄物の排出量 t 19,504 汚染・汚染除去 有害廃棄物の
発生と処理
廃棄物の
処分方法別内訳
埋立 t 11
焼却 t 13,891
その他の処分 t 304
処分方法不明 t 0
廃棄物のリサイクル量 t 5,298
水使用量(上水使用量)*6 kℓ 4,175,391 資源の利用・
補充
水不足地域からの取水と消費
  1. 指標の対象範囲は、国内連結会社および海外連結会社です。
  2. 「GHG排出量(スコープ3カテゴリー15 投融資)」と「加重平均炭素強度(WACI)
    (Scope3カテゴリー15 投融資)」については、2022年度の実績です。
  3. 算定にあたっては、MSCI ESG Research社が提供するデータ( (カバー率)2022年度:上場株式84%、社債81%、いずれも時価ベース)を使用しています。対象資産は国内外の上場株式と社債の投資先におけるスコープ1,2です。
  4. GHG排出量は、投資先のEVIC(Enterprise Value Including Cash:現金を含む企業価値)ベースに対する当社グループ持分です。
  5. WACIは、Weighted Average Carbon Intensityの略称であり、各投資先企業の売上高あたりのGHG排出量をポートフォリオの保有割合に応じて加重平均した値です。なお、2021年度の数値からWACIの算出方法が変更となっております。
  6. 当社グループでの水使用量を示しています。水不足地域への該当の有無は今後確認してまいります。

(2)リスクと機会を管理するための目標

当社グループは、以下の目標を設定し、その進捗の管理を行っております。

項目 目標値
自社のGHG排出量削減率 2030年60%削減(2017年比)
2050年実質排出ゼロ

※スコープ1,2,3(除く投融資)が対象
※目標基準年である2017年の総排出量実績は、412,771 t-CO2e
投融資のGHG排出量削減率 2025年25%削減(2019年比)
2050年実質排出ゼロ

※スコープ3カテゴリー15が対象(対象資産は上場株式と社債)
※目標基準年である2019年の排出量実績は、
株式:1,013,157 t-CO2e 社債:1,059,379 t-CO2e
合計:2,072,536 t-CO2e
再生可能エネルギーの導入率 2030年導入率 70%
2050年導入率 100%
トランジション保険目標 2026年度 250億円

※脱炭素に資する保険商品の元受保険料を目標値としております。
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