トップコミットメント

グループCEO 取締役 代表執行役会長
櫻田 謙悟

はじめに

私たちの世界は、いま多くの課題と向き合っています。最近では、ロシアによるウクライナへの軍事侵攻を契機とする世界的な資源エネルギーの高騰や食糧安全保障の危機、米国をはじめとするインフレの加速、金利や為替の変動などが企業や人々の生活に影響を及ぼしています。日本も例外ではなく、さらに新型コロナウイルス感染症拡大への警戒が続くなか、異常気象や自然災害などが人々の日々の安全な生活を脅かしています。
こうした多様な局面を抱えながら「自利」が衝突する分断の時代においては、未来に向けた正しい選択をし、社会的合意を作り出すことは極めて難しいと言わざるを得ません。乗り越える唯一の道は、マルチステークホルダー主義、つまり社会のさまざまなステークホルダーが、お互いの立場や利害の違いを乗り越えて合意を探ることだと思います。
そして私は、このマルチステークホルダー主義を実践するうえでは、日本にこそ、他国に対する優位性があると信じています。鍵は「世のため人のため」が自らの利益につながるという「利他」の精神です。新渡戸稲造博士の「武士道」や、渋沢栄一翁の「論語と算盤」でも示された価値観であり、私は、中庸や社会の調和を重んじる精神性と豊かな文化的伝統が、日本の特性や実践的な知恵を育み、強みになっていくという考えを持っています。これは、近年世界のリーダーたちの議論や企業経営においても重要性が増している、SDGsや脱炭素社会に向けた気候変動対応にも通じることだと思います。
一方で、30年に及ぶ長い停滞を経て、日本が世界の中で弱い国に転落してしまうのではという懸念を抱いています。国内の人口動態の変化や少子高齢化はすでに待ったなしの状況にあり、課題先進国と言われる現実からも目を背けることはできません。しかし、そのような中でも、SOMPOはこれまで、保険や介護を中心に「安心・安全・健康のテーマパーク」の実現を目指してチャレンジしてきました。そして、2021年度は過去最高益に到達し、VUCAの時代においても着実に成長が望めることを証明できたと思います。当社が描くストーリーが正しかったと信じて、これからの日本、そして世界のために、どのように貢献し、どのような未来社会を創っていくのか、完成予想図を示しながら、グループとして成長を続けていきたいと思います。

「SOMPOのパーパス」とグループの成長ストーリー

グループの共通言語となった「SOMPOのパーパス」

当社では、「SOMPOのパーパス」を経営の軸に据えることをグループ全体で合意して、社員一人ひとりへの浸透を図ってきました。そして同時に、社員それぞれの「MYパーパス」の重要性にも着目して、タウンホールミーティングを複数回開催し、私自身、延べ1万人以上のSOMPOグループの従業員と向き合ってきました。
長い時間をかけて改めて確信したのは、「SOMPOのパーパス」と「MYパーパス」という2つのパーパスの融合こそが会社経営には重要であり、これを抜きに成長は見込めないということです。社員一人ひとりの多様なMYパーパスを尊重し合うダイバーシティ&インクルージョン(D&I)に溢れる環境で、自らのMYパーパスに突き動かされた社員が自分らしく、SOMPOのパーパス実現に向けてチャレンジを繰り返す。これこそが、当社の成長を支える原動力であり、保険や介護といった既存事業や、後述するリアルデータプラットフォーム(RDP)を中心とした新たな価値創造において、社会課題解決に資するイノベーションを生み出していきます。これが当社の目指すSOMPOらしい価値創造の姿であり、パーパス実現に向けた成長ストーリーです。
このストーリーの出発点は一人ひとりのパーパスです。社員自身がパーパスの重要性を信じ、誰かの借りものでなく、自分自身に深く問いかけて「MYパーパス」に辿り着くことからすべては始まり、グループ全体でその輪を広げていきます。そして、国も組織も超えたSOMPOという1つの大きな船に全員が乗り、実現したい社会に向かっていきます。
私は、経済同友会等の場で、将来世代や若手経営者、メディア・学識経験者の皆さまと「生活者共創社会」というテーマで議論を重ねています。生活者とは、消費者であり、働き手、すべての個人と、それにより構成される企業、政府も含む広い意味で使っている言葉です。それぞれの生活者がパーパスにのっとり、主体的な観点でさまざまな選択と行動を繰り返しながら、全体としては、あらゆるステークホルダーの最大幸福の実現のために質的な成長を追求する社会を、どう創り上げていくかということがテーマです。まだ、これから発想を広げていく必要はありますが、SOMPOがその実現の先鞭をつける存在になっていきたいと思っています。

「MYパーパス」に突き動かされるSOMPOのカルチャーと原動力

私とのタウンホールミーティングで、ある社員は「幼いころに貧しかった経験からお金の大切さを学び、その学びが今の生命保険の仕事に活きている」こと、また別の社員は「介護という仕事を通じて、幼少期の過酷な経験を乗り越え、人を信頼する、人に信頼されることの大切さを心から感じ、今では介護が自分の人生そのものである」など、自分のことを包み隠さず、原体験とそこから辿り着いた「MYパーパス」を語ってくれました。
「MYパーパス」に向き合う社員は、自身の内発的な動機に突き動かされて自ら考えて行動し、その結果は高いエンゲージメントにも表れてくると思います。また、「MYパーパス」から生まれる内発的な動機や圧倒的な当事者意識は、仕事の生産性や専門性そして創造性などを高める源泉になります。
そして、当社には、保険会社としての130年を超える歴史、祖業の伝統があります。「身を挺してお客さまを守り抜く」という創業の志のもと、長い時間をかけて積み重ねてきたお客さまからの信頼、それに応えるための責任と本質的な「安心」や「温かさ」の精神は、SOMPOのDNAとしてこれからも変わらずグループの根底にあり続けます。この強いDNAと、「MYパーパス」に突き動かされる社員たちとの融合がSOMPOの中で化学反応を起こしていくことを期待しています。
一般的に、大きな組織では、個人のパーパスを会社のパーパスにつなげることは難しいと思われる方もいるかもしれませんが、一人では難しいことでもチームや会社なら実現できる、会社という装置を使って「MYパーパス」を実現したい、そう考える社員が増えて「MYパーパス」が会社の先を行くようになれば、行動が大きく変わり、会社のカルチャーも変わると思います。
こうしたカルチャーの変革を下支えし、さらには加速させるためにはD&Iは欠かせません。当社にはさまざまなバックボーンを持つ社員が、グローバルかつ多様な事業の現場で働いています。タウンホールミーティングは事業を問わず誰にでも参加を呼びかけ、研修や講習も原則事業の垣根を越えて実施しています。また、東京の本社ビルにはSOMPOインターナショナルのメンバーが常駐できるオフィスを用意しました。さまざまな機会を得て、「MYパーパス」と自身の仕事を上手くマージして成果を出していける人を、性別、年齢、国籍に関係なく積極的に登用することで会社は強くなると考えています。こうして社員の内発的動機を高め、チャレンジとイノベーションの機会を増やし、現場に活力を生みながら経営の質を高める戦略によって、SOMPOの価値創造の原動力となる人財を強固なものにしていきます。

SOMPOの企業価値向上への戦略

未実現財務価値が裏づけるSOMPOの企業価値向上の「伸びしろ」

当社は2021年に新しい中期経営計画を公表しました。そこでは、既存の事業領域を中心とした規模の拡大とリスクの分散、新しい顧客価値の創造、働き方改革を基本戦略に掲げています。サービスを提供する側でなく、お客さまやご利用者さまの目線と期待にもとづいて戦略を実践し、社員の働きがいと生産性を支える施策も打っていきます。現状維持では前に進めないという気持ちで徹底した現場主義を貫き、DX(デジタル・トランスフォーメーション)やグループ内の戦略的なシナジー実現を目指さなくてはならないと思っています。
しかし、そうした努力の結果は、市場においては財務的な価値に対する評価中心にとらえられ、それが企業の価値とされることが一般的だと思います。これは、当社だけでなく、多くの企業が同じような思いを持たれているのではないでしょうか。企業の価値には、定量的には示すことの難しい「何か」が介在するはずであり、その答えは、企業固有のストーリーと、それを裏づけるエビデンスの有無が関係しているのではないかと考えています。
企業価値を高めるためのストーリーには、社会課題解決への貢献やWellbeingの実現という要素が欠かせません。SOMPOはマルチステークホルダーに向けて「安心・安全・健康のテーマパーク」という「SOMPOならでは」の価値創造のストーリーを示し、その実現に向けたトランスフォーメーションを繰り返すことで、これに挑戦していきます。そのためのパートナーとして、米国のパランティアや、国内最大級の公的研究機関である産業技術総合研究所との提携も実現しました。
意気込みや曖昧な定義ではなく、しっかりと社会へのインパクトやエビデンスを示していけるよう、グループ内外の英知を集め、「SOMPOならやれる」という確固たるものを築き、SOMPOの企業価値、ブランドを高めていきます。これはグループCEOである私のミッションであり、株主の皆さまや取締役会からの付託だと思っていますから、必ず成し遂げるという強い覚悟で臨んでいきます。

介護RDPが変える社会

SOMPOの企業価値を高めるため、まずは介護事業におけるRDPの実用化を成功させたいと思っています。少子高齢化に伴う介護の担い手不足や社会保障費の増大は、国難とも言える避けられない現実です。
SOMPOはこの重大な課題に正面から向き合うと決めています。介護の現場から収集するリアルデータをもとに、まずは「見える介護」を実現して現場を支えます。さらに、「匠を仕組みに」をコンセプトに、介護の質を高めるソリューションを開発するとともに、「予測する介護」も実現し、約230万人いるとされる「支える側」の人々も支えたいと思っています。このノウハウを他の事業者の皆さまとも共有できれば、将来社会に非常に大きなインパクトを与えることができるはずです。100年の人生を誰もが豊かに過ごせるように、ご利用者さまのQOL(Quality of Life)の向上、約7,000社の事業主のプラットフォームを創り出していきます。介護RDPは、まだリリースを目指して開発に取り組んでいる最中ですが、ここから未来がもっと良い方向に変わると信じて、私自身も楽しみで仕方がない思いでその日を待ち望んでいます。
しかし、介護の課題はとても大きく、さまざまなステークホルダーの力を借りなくては解決できません。国や自治体とも連携して、三位一体の在宅介護モデルの確立や、将来的には混合介護の実現も必要だと考えています。また、今後は海外諸国も必ず同じ課題に直面すると思います。SOMPO発、日本発のソリューションを海外へ輸出することも視野に、あらゆるステークホルダーを巻き込んで、大きくて幸せなエコシステムを創っていきたいと思っています。

サステナブルな成長を支えるSOMPOの仕組み

20年先、50年先の将来の社会を支えていくには、サステナブルな経営体制の構築も不可欠です。現在、当社には、5人の事業オーナーと、9人のグループ・チーフオフィサーが執行を担っています。事業オーナーはそれぞれがトップの立場で事業の魅力を高め、いわばグループの「遠心力」として成長・拡大を牽引します。そして、グループ・チーフオフィサーは、グループの共通戦略が確実に遂行されるよう、いわばグループの「求心力」として連携を図り、計画を実行していきます。全体を統括するのが、グループCEOである私と、グループCOOです。
これらのメンバーは、取締役会から指名、委任を受けて選定されます。当社は健全な成長には厳格なガバナンスが不可欠という考えから、2019年に指名委員会等設置会社に移行し、現在は14名中10名が社外取締役という構成で執行部門の監督を行う体制としています。2022年4月からは、グループCOOには奥村、国内損害保険事業オーナーには白川、介護・シニア事業オーナーには遠藤に、それぞれ新たに就任してもらいました。いずれも社外取締役のみで構成される指名委員会が、サクセッション・プランに従い承認を行ったメンバーであり、各事業を力強くリードしてくれると確信しています。
なお、これまで幅広い事業領域で高い実績を残してきたグループCOOの奥村に関しては、今後SOMPOの「安心・安全・健康のテーマパーク」の具現化をリードし、将来的にグループCEOを担うことも視野に、経営の多くの領域を担っていくのに相応しいと考え、代表執行役社長として指名委員会に推薦し、ご承認いただきました。今後奥村グループCOOには特に保険事業(国内損害保険、海外保険、国内生命保険)の実質的な責任者として、現中期経営計画の目標達成を牽引してもらい、私は引き続きSOMPOグループの最高経営責任者として、介護やデジタル、大型M&Aなどグループ全体の戦略的課題に関する重要事項を所管するという役割分担となります。こうした新たな経営体制で、中期経営計画の残り2年の完遂に一丸となって取り組んでいきます。

最後に

私は、幼い頃は強く、かっこいい人間になりたいと思っていました。しかしその後、剣豪宮本武蔵の「独行道」に記された「身を浅く思ひ、世を深く思ふ」という言葉に出会い、自分のことだけを考えていては、真の強さを手にすることはできない、大切なのは誰かのために努力する精神だと気づかされました。
以来、さまざまな出会いや経験を積み重ね、大きなグループを率いるようになり、昨年には「あらゆる人が自分らしい人生を健康で豊かに楽しむことのできる社会を実現する」ことをグループのパーパスとして掲げました。リアルデータを活用して、事故を減らし、被災を減らし、病気のリスクを減らし、日々の暮らしをより安心・安全なほうへ、人々の人生をより健康なほうへ変えていく。これが今の私のパーパスです。
これからもグループの成長を牽引して、より良い社会を作ることで、未来を選択する権利を持つ若者・次世代にバトンを渡していく責任を果たしていきます。