トップコミットメント

グループCEO 取締役 代表執行役会長
櫻田 謙悟

はじめに

世界は今、VUCA(Volatility, Uncertainty, Complexity, Ambiguity)の真っただ中にあります。異常気象や激甚自然災害の常態化、AIの急速な進展、ロシアによるウクライナ侵攻を契機とするエネルギー資源の高騰、新型コロナウイルス感染症など、過去の延長では考えもおよばないことが立て続けに起こり、私たちの生活に大きな影響を与え続けています。1年先どころか数か月先すら見通すことが難しく、さらに混迷が深まっています。
このような時代だからこそ、私たちには、考えることをやめ立ち止まるのではなく、一人ひとりが自ら能動的に考え、変化に対しても柔軟に対応し、多くの課題を乗り越えていくことが求められていると思います。主体性を持った個人やその集合体である組織が国や社会のあるべき姿を考え、たとえ小さくともイノベーションに挑戦することで幸福度の高い社会を目指す。こうした社会を私は「生活者共創社会」と呼び、さまざまなステークホルダーとともに実現を目指したいと思っています。
生活者とは働き手であると同時に家族の一員、消費者など多面的な役割や立場を持つ個人だけでなく、個人の集合体である組織をも含む概念です。企業は「生活者共創社会」の一員として、社会のあらゆるステークホルダーの「ハピネス」という多面的な価値の創出に取り組むべく、組織や人材のダイバーシティを高め、より多くのイノベーションを生み出していくことが求められます。その前提となるのが、違いを許容し個人を尊重するインクルージョン(包摂性)であり、そしてインクルージョンの根底にあるのが「パーパス」であると私は考えています。

SOMPOのパーパス経営

SOMPOらしいパーパス経営

SOMPOは、「“安心・安全・健康のテーマパーク”により、あらゆる人が自分らしい人生を健康で豊かに楽しむことのできる社会を実現する」ことをパーパスとしています。これはSOMPOが向き合うべき社会課題は何か、SOMPOが社会に提供する価値は何かを定めたものであり、「安心・安全・健康にくらしたい」という人々の根源的な想いや価値観にアプローチしたものです。そしてSOMPOグループの多様な事業、多様な社員に共通の目標やミッションなど進むべき方向を示したものです。
そして今、SOMPOは、このパーパスを経営の軸に据え、SOMPOらしい「パーパス経営」に挑戦しています。SOMPOらしさとは、事業のダイバーシティとパーパス・マネジメントです。つまり、保険、介護、デジタルといった多様な事業が「テーマパーク」という1つの戦略のもと、事業の垣根を超えて連動・連携しSOMPOのパーパス実現を目指す。さらに、その取組みは多様なバックグラウンドを持つ社員一人ひとりの「MYパーパス」を起点に、個の力を最大限に発揮しながら突き進んでいく。これこそが私が考えるSOMPOらしいパーパス経営です。このSOMPOらしいパーパス経営によって、マルチステークホルダーのハピネスに貢献するさまざまなイノベーションを生みだす企業グループになることを目指しています。

起点となる「MYパーパス」

「MYパーパス」とは働く意義や生きる目的ともいうべきもので、個人の経験や価値観といった内面的なところから湧き上がってくるものです。SOMPOの社員は、「保険を通じて笑顔を増やしたい」(損害保険)、「最高の思い出を作れる場所を提供したい」(介護)といった、さまざまな「MYパーパス」を持っています。そしてそれぞれがSOMPOのパーパスと重ね合わせることで、内発的動機にもとづきパーパス実現に向けたチャレンジを繰り返す。そのような企業文化への変革を目指しています。
そのために何より重要なのが、経営トップ自らが自身の言葉で語り社員と対話することと考え、私自身、2021年から継続的にタウンホールミーティングを開催しています。世界中のSOMPOグループの社員(累計約2.5万人)とMYパーパスを語り合い、SOMPOらしいパーパス経営の目指す姿を伝えてきました。さまざまな事業や国・地域の社員が互いのMYパーパスと会社のパーパスについて語り合うことで、互いに刺激を受け明日への活力を得るという試みは、SOMPOだからこそできることであり、グループのトップとして今後も精力的に行っていきます。
そして、SOMPOらしいパーパス経営をやり抜くためにはチャレンジの総量を増やすことが何より重要です。2022年から世界のSOMPOグループの社員を対象とした「SOMPOアワード」を開始しました。失敗を恐れずMYパーパスにもとづくチャレンジを繰り返す、そのようなカルチャーへの変革を目指したグループ横断の表彰制度です。「介護が価値のある素晴らしい仕事であることを伝えたい」という想いからチームを結成して取り組んだSOMPO流子ども食堂プロジェクトや、「誰もがワクワクする社会を実現したい」という想いから生まれた視覚障がい者向けの遠隔サポートサービスの開発など、初年度にもかかわらずMYパーパスを起点とした素晴らしい取組みが1,000件近く集まりました。MYパーパスにもとづくチャレンジを自ら語り、それを褒め称え合う。そのことが世界中のSOMPOの社員の共感を呼び、そして互いにつながりあうことで、チャレンジの輪が広がり、イノベーションが加速していくことを期待しています。

企業価値につながる未実現財務価値

未実現財務価値の向上

パーパス経営の土台となるこのような取組みはいわゆる「非財務」と言われます。確かに直接的に財務価値をもたらすものではないかもしれませんが、中長期的には財務価値や企業価値につながるはずです。また企業が創出する社会価値の視点で言えば、より大きな社会課題解決に取り組み、価値を提供していくことがステークホルダーからの期待であり、それこそが企業としての存在意義であると考えています。企業の立場からすると、このような「非財務」と言われる取組みをどのようにビジネスにつなげ企業価値を高めていくのか、また自社がチャレンジする社会課題や自社ならではの社会価値とは何かをもっと雄弁にかつエビデンスベースで語っていくべきです。そしてそのことが企業価値を押し上げていくものと信じています。
当社では、このような取組みの結果、中長期的に財務価値・企業価値につながる価値を「未実現財務価値」と呼んでいます。そして、これらが財務価値・企業価値につながることをエビデンスベースで確認しながら、その総量を増やしていきます。実際にダイバーシティが進んだ組織の社員のエンゲージメントが高いことや、エンゲージメントの高い組織の業績が良いことなどについて、当社ではさまざまな指標を測定し相関関係を分析し、これらがどのような経路で財務価値や企業価値につながっていくかを社内外に示しています。

介護リアルデータプラットフォーム『egaku』が創出する社会価値

SOMPOならではの大きな社会価値を創出する取組みの1つが、2023年度から事業化した介護リアルデータプラットフォーム(RDP)『egaku』です。少子高齢化がもたらす介護現場の需給ギャップの拡大は、日本では2040年までに介護崩壊をもたらし、海外においてもいずれ同様の事態が訪れるという見方もあります。『egaku』は、施設入居者の日々のバイタルなどのリアルデータを可視化・解析することで一人ひとりにとっての最適なケアを実現するものです。介護現場における生産性や品質を高め、人にしかできない温かみのあるサービスへの注力を可能とし、職員の時間創出や働きがい・エンゲージメントの向上といった効果も生み出します。これを自社だけではなく介護業界に広げていきます。そしてこのサービスを介護業界のデファクトスタンダードとし、日本で2040年に69万人にまで広がると言われている介護需給ギャップの解消を目指します。そして、あらゆる人が介護を受けられる未来社会の実現に貢献していきます。
当社では『egaku』によって解消できる介護の需給ギャップを22万人と見込んでおり、これにより創出するGDP換算の社会価値を3.7兆円と試算しています。世界で見ても、介護需給ギャップの解消に資する効果的なソリューションを私は聞いたことがなく、SOMPOが日本だけでなく世界の課題解決に自信を持って取り組んでいきます。そして多くの高齢者を支え、介護の未来を変えるというSOMPOにしかできない価値創造を着実に進めることで、企業価値を高めていきます。

「なくてはならない」存在となるために

最後に、中期経営計画について触れたいと思います。
国内損害保険会社2社の経営統合を機に2010年に持株会社を設立して以降、“安心・安全・健康のテーマパーク”という世界に類を見ないユニークな事業モデルを確立し「なくてはならない」存在となるために、精力的にトランスフォーメーションを進めてきました。主力事業である保険については、国内損害保険会社、生命保険会社の統合による収益力向上に加え、海外保険会社の大型買収を通じたグローバルプラットフォームにより、さらなる成長とレジリエンスを実現するポートフォリオの構築を図ってきました。さらには、2015年の介護事業への本格参入や2016年からの積極的なデジタル投資、パランティアという強力なパートナーの獲得など、“安心・安全・健康のテーマパーク”の実現に向けた事業基盤構築も着実に進めてきました。
このように築き上げてきた基盤を土台に、「“安心・安全・健康のテーマパーク”の具現化」を到達点に掲げたのが2021年度からの3年間の中期経営計画です。
パーパス実現に向けた3年間と位置づけ、グループ一丸となって取組みを進めた結果、海外保険事業はグループの成長ドライバーとなり、テーマパーク実現を推し進めるために不可欠となる強固な財務基盤をもたらす存在となりました。また、SOMPOの強みでもある多様な事業から生み出される豊富なリアルデータが、『egaku』という大きな社会価値を創出する新事業として具現化しました。数値目標については一過性の要因により2022年度の修正連結利益は計画値に届きませんでしたが、2023年度末には過去最高益となる2,800億円、修正連結ROEは10%の達成を見込んでいます。CEOとして10年以上にわたって進めてきたテーマパーク構想の成果に大きな手応えを感じています。
しかし、SOMPOがテーマパークを実現し、真に「なくてはならない」存在になれたかというと、私はまだ十分ではなく、追求し続けていかねばならないと考えています。私はグループCEOとして、グループCOOの奥村さんとともに、SOMPOならではのパーパス経営を加速し、インクルージョンを前提に人材のダイバーシティをさらに進め、データ・デジタルを最大限に活用し、社会課題解決につながる新たな価値を創出し続ける。そのような企業グループへの変革に取り組みます。そしてSOMPOを世界に類を見ないユニークな価値を提供する「なくてはならない」存在にしていきます。

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