中期経営計画(2024~2026年度)の目標と2030年度の目指す姿
2024年度からスタートした中期経営計画(以下、現中計)から1年が経過しました。現中計では、最終年度の2026年度までに修正連結ROEを13~15%水準に引き上げ、現中計期間の修正EPS成長率を12%超(いずれもIFRSベース)とすることをグループ経営数値目標として掲げています。また、政策株式残高をゼロにする2030年度の目指す姿として、時価総額6兆円水準、修正連結利益5,000億円水準をお示ししています。
グループの目標達成に向け、現中計においては資本循環経営のさらなる進化を掲げており、2024年度においては、規律をもった資本政策に基づき、過去最大規模となる2,600億円の自己株式取得を公表しました。また、2025年度からは、グループのビジネス領域を「SOMPO P&C」、「SOMPOウェルビーイング」に集約し、国内・海外一体となってリスク対比リターンを最大化する取組みを開始しました。あわせて、他の国内損害保険グループに先駆けて、国際財務報告基準(IFRS)に基づく業績報告も本格的に開始することになります。
これらの取組みを着実かつ効果的に進めていくとともに、時価総額・修正EPSの持続的成長を図りつつ、資本効率をグローバル水準まで向上させることによって、現中計のグループ経営数値目標および2030年度の目指す姿を達成することが、グループCFOとしての私のミッションです。
それでは、現中計1年目の進捗もふまえ、当社の財務戦略について詳しくご説明します。
現中計1年目の振返りと今後の見通し
現中計開始時の2024年3月末時点で3,190円だった当社株価は、2024年度中間期での利益見通しの引き上げや規律ある資本政策などが奏功し、2025年3月末時点では4,521円と1.4倍に上昇し、時価総額は4.2兆円規模まで拡大しました。この大幅上昇の要因は主に海外保険事業の成長と政策株式の売却およびそれに伴う規律を持った株主還元の拡充がけん引したものと認識しています。一方、この1年間でSJ‐Rの遂行や海外の地理的拡大、ウェルビーイング事業の基盤固めなど、グループの重要戦略に着実に取り組んだものの、本質的な収益性の改善はまだこれからとなります。2030年度の時価総額6兆円水準の実現に向けては、グループ戦略の着実な実行、それに伴う収益性、利益規模の拡大を通じたバリュエーション向上を実現していく必要があると考えています。
現中計のグループ経営数値目標の状況について、修正EPS成長率目標(12%超)達成に向けては、2024年度中間期の資本水準調整としての自己株式取得1,100億円の実行もあり、今後の利益成長を念頭に置くと順調に進捗しています。修正連結ROE目標(13~15%水準)に関しては、チャレンジングな目標ではありますが、達成に向けて、まずは既存事業の収益性改善や規律ある成長投資実行による修正連結利益の成長、すなわちROEの分子対策に一義的に取り組んでいきたいと私は考えています。一方で、特に成長投資については機会の有無に左右されますし、規律を持って判断しなければなりません。したがって、まずはROEの分子対策に取り組んでいくものの、成長投資パイプラインや収益機会の状況、市場環境、自己株式取得によるマーケット影響などのさまざまな要素も見ながら、必要であれば資本水準調整などの分母対策についても検討していきます。いずれにしても、成長を念頭に置きつつ、分子・分母のバランスをとりながら、2026年度のROE目標の達成を目指します。
図1 修正連結利益の推移

- 2023年度までは旧基準(日本基準)ベース、2024年度以降はIFRSベース
- 2021年度以降は平年値ベース:コロナ影響、大口事故、自然災害(2023年以降は国内のみ)などの一過性要因を期初予想値に調整
- 旧基準(日本基準)ベース実績値 2021年度:2,613億円、2022年度:1,522億円、2023年度:2,910億円、2024年度:3,343億円
- IFRSベース実績値 2024年度:3,234億円
図2 1株当たり修正連結利益(修正EPS)の推移

- 平年値ベース、2021年度、2022年度は、試算値
図3 株価純資産倍率(PBR)と修正連結ROEの推移

- 平年値ベース、2021~2022年度は試算値
- 2021~2022年度は試算値
資本循環経営の進化
現中計の財務戦略として、当社は資本循環経営の進化を掲げています。資本循環経営は、まず、各事業が配賦された資本を元にビジネスを運営し、資本効率を最大化するようなリスクテイクを実行、事業別ROEなどのKPIを着実に達成することで、グループ経営数値目標の達成に寄与する役割を担います。持株会社は各事業が創出した利益を回収し、その集約した資本をグループ経営数値目標である修正連結ROEおよび修正EPSの成長に資する投資や魅力ある株主還元に活用するとともに、各事業への資本の再配賦、業績モニタリングなどといった役割を担います。このため、現中計では各事業から持株会社への資本・資金回収(レミッタンス)を強化する方針を定め、各事業による運用益とのバランスをとりつつ、持株会社で余剰資本をコントロールする考え方を導入しています。また、現中計で目指すROE目標なども踏まえ、資本の充実状況を示すESR(Economic Solvency Ratio)のターゲットレンジ上限を20pt引き下げて250%に変更しました。
その上で、資本循環経営のポイントとなる「リスク削減・コントロール」、「リスクテイク・成長投資」および「株主還元」といった施策を確実に実行することで、資本循環サイクルの強化を図り、グループ経営数値目標である修正連結ROEおよび修正EPS成長の達成を確実なものとしていきます。
それでは、これから各ポイントについて詳細をご説明します。
リスク削減・コントロール
当社は2030年度末までに政策株式の保有残高ゼロを目指しており、2024年度の政策株式削減額は、当初計画を大幅に上回る4,293億円の削減となりました。これを踏まえ、現中計期間の政策株式削減計画額は、6,000億円から8,000億円以上に上方修正しました。2030年度に向けて削減ペースをさらに加速させ、政策株式削減により強化された資本を、オーガニック成長やM&A、株主還元などに振り向けていきます。
また、各種投資案件についても、当初の計画や事業環境変化などを踏まえた明確な基準を定めてEXIT判断を厳格に行い、不採算投資からの早期撤退や資本の効率的な回収を進めるとともに、回収した資本を新たな成長投資機会に振り向けていきます。その他にも、国内自然災害リスクの管理を強化するとともに、収益性の悪い保険ポートフォリオの削減なども進めていきます。
図4 政策株式削減額と政策株式保有残高の推移
政策株式削減額

政策株式保有残高の推移

- 修正純資産対比、2024年度以降はIFRS純資産対比
リスクテイク・成長投資
現中計のリスクテイクの方向性として、海外M&A・ウェルビーイングM&A・オーガニック・基盤強化の4領域を掲げています。各領域でのリスクテイクを着実に進めていきますが、後程ご説明する2ビジネス体制(SOMPO P&C、SOMPOウェルビーイング)の確立により、各領域でのリスクテイクはより効果的なものになると考えています。
2030年度の目標達成に向けては、一定規模の利益積上げが必要不可欠であることをふまえると、やはりM&A実行によるインオーガニックな利益成長は必要不可欠と認識しています。その観点では、特に収益貢献が早く、レジリエンスの向上に資する海外M&Aに対するアペタイトは強く、ハードルレートをはじめとした当社の投資規律およびカルチャーにフィットする案件があれば、躊躇なく取り組んでいきます。ターゲットとする領域は従来と変わらず、地理的には北米・欧州、特にコマーシャルビジネスが選択肢になりますが、これに縛られず、視野を広く検討しています。ウェルビーイングM&Aの領域では、当社グループの持続的な成長に貢献し、かつSOMPOの強みが活きる投資領域に注力し、商品・サービス基盤の拡充につなげます。
なお、M&A自体は目的ではなく資本効率向上のための手段のひとつですので、常に規律を持って検討を進めることに変わりはありません。実際に、バリュエーションの動向などもふまえた結果、2024年度においては大規模なM&Aの実行はありませんでしたが、海外の保険分野を中心としたオーガニック成長に資する投資、収益性の高いセグメントを中心とした保険引受リスクテイク、クレジット投資の拡大などの資産運用リスクテイクについては、着実に実行していきました。
また、グループ戦略実行に必要不可欠である人材への投資は現中計の目玉のひとつと位置づけており、加えてイノベーションや生産性の向上等に資するデータ・デジタルに関する投資もしっかり行っていきます。
株主還元方針
各事業で創出された利益については、各事業による運用益とのバランスをとりつつ、原則として持株会社にて集約・管理します。そして集約した資本のうち一部は、株主の皆さまに還元します。株主還元にあたっては、財務健全性や事業環境などを勘案しつつ、持続的な利益成長による増配の継続を基本とし、株価・資本の状況に応じた機動的な自己株式取得も選択肢とします。
現中計の株主還元方針では、IFRS導入後の2025年度から、株主還元の予見性・安定性を高めるべく、修正連結利益の直近3年平均の50%を基礎還元とし、利益成長により、配当総額に自己株式取得額を加えた総還元額を拡大させていきます。また、中期的な利益成長にあわせた増配を原則とし、基礎還元に占める配当の割合を高めていきます。それに加えて、原則として政策株式売却損益等(税後)の50%を追加還元します。さらに、ESRターゲットレンジ上限を恒常的に超過する場合には、リスクと資本の状況、業績動向や金融市場環境などをふまえて資本水準調整も検討します。
現中計の株主還元方針に基づく2024年度の業績に対する総還元額は3,859億円、うち自己株式取得額は2,600億円といずれも過去最大となりました。また、各事業の今後の業績見通しや規律を持った資本政策をふまえると、現中計期間のEPS成長率は+14%超を見込めると判断し、2025年度配当は、2024年度配当から18円増配となる1株当たり150円と、12期連続の増配を見込んでいます。
今後も、市場の皆さまとの対話を重ねながら、株主還元の魅力を高めていきます。
図5 株主還元の推移

- 当社は2024年4月1日付で1株につき3株の割合で株式分割を行っており、株式分割前後の1株当たり配当を比較する場合は分割前も同基準に調整(小数第1位を四捨五入)して記載しております。
図6 株主還元方針

図7 ESRターゲットレンジ

2つのビジネス体制(SOMPO P&C、SOMPOウェルビーイング)確立
当社グループでは、2025年度からビジネス領域を「SOMPO P&C」、「SOMPOウェルビーイング」に集約し、事業や地域の枠を超えて連携を強化します。2ビジネス体制で「レジリエンスのさらなる向上」と「つなぐ・つながる」を推進・加速することでグループの持続的な成長を目指します。SOMPO P&Cは29の国・地域でグローバルに損害保険事業を展開しており、不確実性が高まる環境下において、国内損害保険と海外保険が一体となってリスク対比リターンを最大化することでレジリエンスのさらなる向上を図ります。一層の収益性向上に向けて、海外・国内一体となり1つのバランスシートと見立てた再保険・資産運用などの効率性の追求、海外保険の知見の導入によるSJ‐Rのさらなる加速、海外保険引受の地理的拡大・分散の進展・成長投資等を実行していきます。他方、SOMPOウェルビーイングでは、健康、老後資金、介護の3つの「不」に対して、Insurhealth®拡販、未来の介護展開、資産形成商品の拡販といったSOMPOグループのソリューションを提供することで、Life Time Value(LTV)を持続的に拡大し、2030年度に修正利益1,000億円以上を目指します。
これらの事業成長や財務戦略の遂行により、グループの目標として掲げている2030年度の時価総額6兆円、修正連結利益5,000億円を達成します。