信頼回復と「新しい損保ジャパン」への覚悟
損保ジャパン(以下「当社」)は、自動車保険金の不正請求問題、企業向け保険の保険料調整行為、そして保険代理店との間で発生した保険契約情報の不適切な管理といった一連の事案により、お客さまをはじめとしたステークホルダーの皆さまにご迷惑とご心配をおかけしました。私は社長就任前からこれらの問題への対処に関わってきましたが、真因は当社のビジネスモデルが社会や環境の変化に対応しきれていなかったことだと考えています。
今変わらなければ未来はない、という覚悟のもと、私たちは「新しい損保ジャパン」の実現に向け、全社をあげた変革プロジェクトである「SJ‐R」に取り組んでいます。これは、業務改善計画の着実な実行をベースとして、これまでのビジネスモデルや仕事のやり方を根本から変革し、当社に関係するすべての皆さまから「損保ジャパンでよかった。SOMPOでよかった。」と評価していただける存在に生まれ変わるための新たな挑戦です。
カルチャー変革を深化させ、事業基盤を再構築する
企業文化の変革は、SJ‐Rのすべての基盤となる最重要事項です。この一年、私たちは「お客さまに、社会に、そして自分にまっすぐ。」というスローガンを掲げ、健全な組織風土の醸成に向けて取組みを進めてきました。
全社員を対象とした「カルチャーチェンジサーベイ」は2024年5月の開始以来、7回連続でスコアが改善しており、企業文化が少しずつ変化してきていることを感じています。業務改善計画で定めた145の取組みのうち、2025年7月末時点で126の取組みが「効果継続」のステータスに到達しました。これは、従来のやり方にとらわれず、変革を実現する組織へと変わろうとする役員・社員一人ひとりの意識の表れであるととらえています。
特に力を入れているのは、経営層と社員の対話の促進です。2025年7月末までに、私をはじめとする本社の役員が、全部店で延べ1万名を超える社員と直接対話をするタウンホールミーティングを行ってきました。対話のなかでは、会社方針に対する建設的な提案が寄せられ、前向きな変化が生まれつつあることを実感しています。
また、2024年11月に本社に新設した「伝承室~教訓から学ぶ~*1」には、2025年5月末までに延べ約4,700名の社員が訪問しました。新入職員も訪問し、一連の問題の経緯や原因を自分事として深く理解する機会を提供しています。
加えて、昨年度に作り上げた「私たちの5つの約束」や、グループ共通コンピテンシーである「SOMPOの価値観」をふまえて、2025年4月には価値基準体系の見直し等に伴う人事制度の改定も実施しました。これは、社員一人ひとりが自律的に考え、行動し、多様な意見を尊重し合う企業文化を醸成するための重要な一歩であり、会社が「人を大切にし、育てる」ことで、社員が幸せと働きがいを実感できる会社の実現を加速させるものです。
また、現場の社員41名を中心に構成された「SJ‐Rワーキング・グループ」による提言が、「お客さま信頼品質基準」の策定や「新しい損保ジャパンの目指す姿」の具体化、そして「新しい保険金サービス部門づくり」といった全社施策に反映されていることも、ボトムアップの変革の大きな手応えとなっています。
一方で、過去の「アンドン*2の欠如」が示唆するように、組織の変革は道半ばです。真の変革は、仕事のやり方やビジネスモデルそのものを変えなければ実現できません。また、ゼネラリストと高度な専門性を持つ人材とのバランス型運用へのシフトは中長期的な課題であり、300億円規模の「SOMPO人材ファンド」を活用して、専門人材の育成・採用を急ピッチで進めています。社員全員が指示を待つのではなく、自ら考え、行動し、さらに進化していく「自律」の精神を全社に根付かせることが、SJ‐R完遂の鍵になります。
- 一連の問題によって世の中から信頼を失った事実や記憶を風化させず、学んだ教訓を後世に受け継いでいくために設置した社員向け施設。行政処分の概要やお客さまからの声・当時の様子をまとめた資料や動画などを閲覧・視聴することができます。
- 問題の発生を知らせる仕組み
収益基盤強化への着実な進捗と今後の展望
この一年、私たちは収益基盤の強化に向けた取組みも加速してきました。
例えば、近年のインフレや自然災害の激甚化・頻発化といった厳しい外部環境のなかで、長年赤字が続いていた火災保険では、持続的に商品提供が可能な料率への変更や規律ある引受を徹底し、コア保険引受利益*3が2期連続で黒字になりました。
また、自動車保険においても、火災保険と同様の取組みに加え、AI活用をはじめとする保険金支払いの適正化と専門性を向上させることで、公平性と収益性の両立に努めています。
事業費率についても、将来の成長戦略に向けた先行投資があったものの、各種対策によって前年度並みの水準を維持することができました。2030年度までには30%程度の事業費率を目指し、ITコスト削減や最適な店舗戦略の実現、代理店と保険会社のあるべき役割分担など、アクションプランを実行していきます。
営業部門では、人口動態の影響を受けやすいリテールビジネスにおいて効率化を進めるとともに、お客さまの利便性向上と事業費率改善の両立を図っています。
コマーシャルビジネスにおいては、単に保険を提供するだけでなく、お客さまのリスクを深く理解・分析し、保険を含む総合的なリスクソリューションを提供できる「プロフェッショナル集団」への変革を目指しています。
生成AIを活用した問い合わせ対応や営業事務の全国7エリアへの集約化に向けた対応も着実に進展しており、ビジネスプロセスを最適化することで2026年度末までに約0.5ポイントの事業費率改善効果を見込んでいます。
保険金サービス部門では、公正かつ適正な保険金支払いのため、2025年4月に不正請求対応専門部署を新設しました。これにより、自動車保険の損害率改善効果が2025年度から発現する予定です。
また、昨年7月にリリースした「SJ‐Rダッシュボード」によって、経営と現場がファクトデータに基づいて対話を重ね、変革の必要性について議論を深めてきたことで、社内全体に変革の意識が浸透していることを実感しています。
同時に、保有するすべての契約をセグメント別に収益管理し、きめ細かなアンダーライティングを実行する態勢の整備にもめどがついています。
*3保険引受利益から異常危険準備金、危険準備金、自然災害責任準備金に係る影響を除いたもの
SOMPO P&Cとして進化させ、SJ‐Rを完遂する
2025年度から、SOMPOグループは「SOMPO P&C」と「SOMPOウェルビーイング」の2つのビジネス領域からなる新たな経営体制へと移行しました。この「SOMPO P&C」体制は、国内損害保険事業と海外保険事業が一体となり、ひとつのバランスシートに基づくリスクテイク能力の拡大を通じてリターンの最大化を図りながら、世界の先進事例を日本流にアレンジして取り入れることで、SJ‐Rの実現の確度と速度を高めることにも取り組んでいきます。
SOMPO P&Cが持つ海外での豊富な経験と専門的な視点を取り入れ、グローバルな視点でお客さまのリスクをとらえ、最適なソリューションを提供できる真のグローバル保険会社へと変革を進めていきます。
SOMPO P&Cの知見をSJ‐Rの完遂に最大限活かすために、すでに取り入れている事例が多数あります。
例えば、海外グループ会社で培われた、インフレや為替変動を織り込んだ可変型の保険設計の検討や、AIを活用した不正請求検知に関するノウハウは、当社の商品部門や保険金サービス部門、営業部門の変革を後押ししています。また、国内と海外が一体となったバランスシートを活用し、再保険や資産運用などの効率性を追求しており、個社単独では不可能だったキャパシティの提供や、グループ全体の収益性と安定性を高めることに貢献しています。同時に、海外と日本の人材交流を加速させ、多様性のある人材を育成する取組みもスタートしています。
一方で、時として変革には痛みが伴い、厳しい選択を迫られることもありますが、私は強い覚悟を持って、ぶれることなく、この変革に取り組んでいきます。
これらの挑戦は決して簡単なものではありませんが、社員全員が誇りを感じられる「新しい損保ジャパン」を実現し、「損保ジャパンでよかった。SOMPOでよかった。」とお客さまをはじめとするステークホルダーの皆さまに実感していただけるように、SJ‐Rをやり遂げる覚悟です。
今後とも、SOMPOグループ、損保ジャパンの挑戦にご期待ください。