ESG投資を通じた持続可能な社会・成長の実現(バックナンバー)

対談:「エンゲージメントを通じたESG投資」

川北氏には、2001年以来、当社のCSRコミュニケーションレポート「第三者意見」を毎年継続してお寄せいただいています。昨年に引き続き、当社グループのSOMPOアセットマネジメント(SAM)は、長年にわたり取り組んでいる「企業との建設的対話(エンゲージメント)を通じたESG投資」をテーマに川北氏と対談し、今後取り組むべき課題を共有しました。(対談実施日:2019年6月14日)

SOMPOアセットマネジメント株式会社
常務執行役員 株式運用部長
中尾 剛也

IIHOE [人と組織と地球のための国際研究所] 代表者 兼 ソシオ・マネジメント編集発行人
川北 秀人氏

SOMPOアセットマネジメント株式会社
代表取締役社長 小嶋 信弘

長年にわたるエンゲージメントを通じたSAMの取組み

小嶋 世の中の潮流としてパッシブ運用へのシフトがすすんでいる一方で、当社は1986年の創業以来30年以上にわたってアクティブ運用に特化した事業展開を続けています。長期的な視点に立ち、企業経営者との建設的な対話(エンゲージメント)、企業調査等により投資先企業の本質的な価値を見極め、見極めた企業への投資により得たリターンを投資家のお客様にお返しすることでお客さまと企業をつなぐ役割を果たしてきました。
持続可能なインベストメントチェーン*1が全体として機能していくには、「長期的」「持続的」「社会的課題の解決」という視点が大事だと言えます。長期投資家として、企業の持続的成長や社会的課題の解決という観点において当社は大きな役割を担っており、果たすべき責任を感じています。

  1. 企業と長期投資家による持続可能なインベストメントチェーン

また、2017年4月に責任投資推進室を新設しESGスペシャリストを配置して体制を強化しています。当社はまだESG(環境・社会・ガバナンス)の概念がなかった1999年からエコファンドの先駆けとして「損保ジャパン・グリーン・オープン(愛称:ぶなの森)」の運用を開始しており、今年で20年となる長い歴史を持っています。これほど長期のレコードを持っているファンドはなかなか無く、こうしたデータの活用を今後検討できたらと考えています。

ガバナンス体制としては、社外の目を経営に生かすという視点で「お客さま第一委員会」を設置しています。また当社における責任投資の取組みを推進していくために「責任投資委員会」を設置しています。このような取組みのもと、海外の投資家を中心に当社の取組みへの評価は高まってきている状況であり、我々の活動が社会的課題の解決の一旦を担っていると考えています。

川北氏 ありがとうございました。責任投資委員会の役割は実績のモニタリングのためか、または議決権行使に関する事前承認を得ていくためか、どちらでしょうか。

中尾 実際に運用を行う現場では、瞬時の判断が求められます。責任投資委員会は、運用の現場に対して何が正しい判断であるかの指針を与えていくという大きな役割を担っています。当社の取組方針を責任投資委員会にてしっかり議論・決定し、現場はそれをもとに判断するという仕組みになっています。

川北氏 責任投資委員会が指針を示して、それに対応するレポートを出すことでモニターしている、という仕組みですね。

中尾 おっしゃる通りです。責任投資委員会で運用判断としての指針を与えて現場がそれを遵守していく、さらに透明性を出すためにお客様第一委員会にも取組み状況を報告しています。

川北氏 社会としてここ数年ようやくESG投資が脚光を集めているような状況ですが、20年続くSRI商品を有する御社の取組みとして、進化された点があれば教えてください。

中尾 最近変化が顕著なのは当社も署名しているClimate Action 100+*2という国際的な集団エンゲージメントです。気候変動などのESG課題は世界共通の社会的課題であり、国際社会で協力してエンゲージメントするのが効率的と言えます。活動が本格化する中で、ある国内企業に対するエンゲージメントでは、当社が世界の投資会社を代表するリードインベスターの役割を担っています。

小嶋 このような国際イニシアティブに協調的に取り組むことで、個々の取組みから大きな取組みに育て、より大きな成果を出していくことが極めて重要なポイントと考えております。

中尾 エンゲージメントというと、かつては投資家が企業に一方的に要求を行うものというイメージがありましたが、最近は一種の価値創造であるという認識が企業側にも浸透しつつあります。そのため、最近ではエンゲージメントに関して歓迎されるようなポジティブな方向に向かっていると、肌で感じています。

*22017年のPRI 総会にて発表され、同年12月のOne Planet Summitにて立ち上げられた、温室効果ガス排出削減に向けた5年間の集団エンゲージメントのことをいいます。SAMは2018年1月に署名し、国内外の参加機関と協調して温室効果ガス排出削減問題に取り組んでいます。

長期視点に基づいた投資価値向上への取組み

川北氏 日本国内では、社会的課題の中でも「健康」や「働き方」などのS(社会)の課題が注目されています。対策が進まないうちに、深刻度が増しつつある課題に対しても、金融機関の取り組みが重要ですね。このようなS(社会)の観点や領域で取り組んでいることはありますか。

中尾 長期か短期かの視点によって当然課題は違います。市場はどうしても短期で見がちで、長期の視点を忘れがちです。日本で社会的な課題というと、人材の育成があり、「人をいかに育てるか」は長期的にみると会社の競争力、リソースになりますが、短期的な目で見るとコストになってしまいます。短期目線にならないよう、長期目線で企業との対話をしっかり積み重ねていくことが大切になります。

小嶋 ESGの観点で言うと、G(ガバナンス)は外形的に評価しやすいですが、E(環境)とS(社会)にまでしっかり踏み込み、エンゲージメントを通じて「何のために、どうお金を使うか、どんな事業を目指すか」を理解することが重要です。

中尾 ESGが「ミレ二アル世代に受けがいい」と言われるのは当然の話です。彼らは長期的な視点を持っているので、長期的なものへの関心は非常に高いものがあります。プラスチックの問題にしても、長期の視点で見てプラスになる事業に取り組むことが、長期的な企業の競争力を左右する判断になっていくのです。

川北氏 TCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)もそうですが、50年など長期の取り組みが求められる場合に、5年ごと区切って社会や世界の動きを確認することで、「環境問題に対応しない企業のポジションが下がる」ことを具体的に説明することも大切です。経営者の長期的な視野と顧客の判断基準に、環境・社会の要素がどれだけ具体的に入ってきているのか、いかがですか。

中尾 考慮すべきファクターが増えてきているのは間違いありません。だからこそ企業と投資家との対話は、長期的な視点で評価した投資価値(フェアバリュー)を軸に据えることが大切です。私たちは15年前からの投資価値の変化を記録しており、投資価値は将来のキャッシュフローの割引現在価値なので、ESG課題に無関心な企業の投資価値はどんどん下がっていくことなります。投資価値はいわば企業の将来を映す鏡で、企業とのコミュニケーションにおいて重要なツールとなっています。

ESG課題に対する意識の変革

小嶋 ESGは従来、企業にとって収益と結びつけにくいという意識がありましたが、それは確実に変わってきています。特に若い世代の消費行動とESGは強く結びついているので、そこに取り組まないと、企業業績に直結してくるというのが分かってきたのです。なおかつ企業または国がリーダーシップを持って行動するモチベーションとして、ESGという切り口がリアルになってきている気がします。日本も世界に追い付け、追い越せの流れについてここ1年くらいでかなり強くなってきています。これをブームで終わらせず、グローバルも含めて協調の活動に結び付けていくことが大切だと思います。

川北氏 欧州企業は機運の変化に対して敏感に反応し、先んじて手を打つ点を、日本企業にも見習ってほしいですね。投資家の視点で言えば、マクロのトレンドが変わりつつある局面で投資判断を適切に行わないと、長期的に見れば、期待される価値を失っているということを、どう見せていくかが大事だと思います。そのためには、不適切な判断のせいで、過去にどれくらい価値をロスしているのかも、見せていきたいですね。企業が未来価値を創造するためには、規制や基準を待つ側ではなく、自ら提案してつくる側にあることが大切ですが、そういった企業の姿勢をエンゲージメントの1つとして評価していくことについてはどうお考えですか。

中尾 おっしゃる通りで、ESGには「自社に有利な競争環境を作りにいく」というビジネス競争の側面もあります。日本の企業の中には、まだESGを従来のCSRの延長線上で捉えているところも多く、そこに海外の企業との差があると思います。当社がESGスペシャリストを置いているのは、日本企業にグローバルの最新動向を伝えることで、企業のサポーター的な役割も果たしたいと考えているからです。

小嶋 日本の産業界もデジタル化などのテクノロジ―の進化の中で変わっていく必要があると思います。
当社もこうした変化にしっかり取り組んでいきたいと思っています。

今後に向けた課題と果たしていく役割

川北氏 おっしゃられた通り日本企業への理解・啓発の働きかけはしっかりされていると思いますが、今後はどのような形で世界のインベストメント・チェーンの中での貢献をさらに高めていこうとお考えですか。

小嶋 現在は機関投資家のお客様が国内外で大きなウェイトを占めていますが、リテールでどのようにESG投資商品を拡大していくかが今後の課題だと思っています。長期目線の「投資」には社会参画の側面もあり、中長期で見たら自分たちの資産形成にも役立つという理解を広め、投資のネガティブなイメージを払拭していくことが大事だと思います。当社にとっても日本全体にとっても、リテールの拡大は課題でありチャンスであると捉えています。

中尾 今後の銘柄発掘という観点では、エマージング市場、特にアジア市場が有望だと思っています。アジア企業に対しても日本企業と同じように長期的な視点からESG評価を行うことで、お客さまと企業の双方に必要とされる存在になりたいと考えています。

川北氏 ふるさと納税やクラウドファンディングなど、社会的課題の解決において意識が高いのは、どちらかというと若者です。高齢化が進む地域の金融機関の活性化を考えたときに、コミュニティ型ファンドなど、地方の課題を解決する力がある企業を応援する枠組みができればと思いますが、いかがでしょうか。

小嶋 デジタル技術の活用がすすんでいく中で、きめ細かくニーズに対応していくことも可能になっていくかと思います。自分が社会参画できる、社会的課題の解決に貢献できるというモチベーションが今後大事になると思います。
またアセットマネジメント事業は高齢者に対して、資産の寿命を伸ばしていくような支援もできると考えています。寿命が延びると資金が必要です。高齢者を資産面で支えていくのも社会的課題の解決に重要であり、当社グループのビジョンである「安心・安全・健康のテーマパーク」の実現に向けて貢献していきたいと考えています。

川北氏 日本で「介護」というとケアサービスのイメージばかりが先行してしまうのがもったいないですね。環境問題ももちろんですが、今後は社会面の課題への対応の進化が必要だと考えており、御社にも取組みを期待します。本日は大変勉強になりました。ありがとうございました。