対話:SOMPOグループの気候変動への取組みの進化

特集:SOMPOグループの気候変動への取組みの進化

気候変動の影響による自然災害の甚大化や被害が相次ぐ中、当社グループの中核事業である損害保険事業においては迅速な保険金支払業務を通じてお客さまに安心をお届けできるよう、新しい試みにチャレンジしています。また、デジタル技術など最新のテクノロジーを通じて社会的課題の解決に取り組むビジネスデザイン戦略部では、地域のレジリエンス力強化に資するサービスの開発に取り組んでいます。
今回、2001年以来当社のCSRコミュニケーションレポートに対する「第三者意見」を執筆いただいているIIHOE [人と組織と地球のための国際研究所] 代表者 兼 ソシオ・マネジメント編集発行人の川北 秀人氏を招き、当社グループの気候変動への取組みと「安心・安全・健康のテーマパーク」という新しい価値創造に向けた今後の進化についてダイアログを実施しました。(ダイアログ実施日:2019年7月1日・肩書は当時)

損害保険ジャパン株式会社 保険金サービス企画部長
中田 益見

IIHOE [人と組織と地球のための国際研究所] 代表者 兼 ソシオ・マネジメント編集発行人
川北 秀人氏

損害保険ジャパン株式会社 ビジネスデザイン戦略部 特命部長
木村 彰宏

2018年度の自然災害への対応と保険金サービス部門におけるデジタル活用

中田 年々自然災害の脅威が増していますが、2018年度は大阪北部地震、西日本豪雨、台風21号、24号、北海道胆振東部地震など複数の大規模な災害に見舞われた年でした。
業界全体でお支払いした保険金は約1兆6,000億円にのぼるなど、経済的にも大きなダメージを与えました。当社は全国およそ20カ所に災害対策本部や災害対策室を設置するとともに全国から応援社員を早期に派遣し、お客さま対応にあたりました。

<業界全体での火災保険金の支払額>

<出典:日本損害保険協会主催SDGsフォーラム資料>

今回認識した課題としては、災害発災時に事故受付センターへの事故受付が集中したことがあげられます。当社はSNSの「LINE」による事故受付を開始しており、災害時には被災地区のお客さまに対して、LINEによる事故受付のご案内と併せてお役立ち情報を配信していきます。また、RPAを活用した事故受付情報などの自動入力や非被災地域で対応を行うなど、事故対応サービスの品質と効率性を高めていきたいと考えています。

川北氏 RPAなどの技術活用によって保険金支払いのスピードが早くなるなど、業務の効率化が進んだという実感はありますか?

中田 RPA以外にも電話対応時の音声を文字化するシステムを導入しており、入力業務の効率化を図っています。この他、AIを活用したドライブレコーダー映像の分析によって自動車事故の責任割合を自動的に判定するシステムの開発に取り組んでいます。事故に遭われたお客さまは、事故状況の説明をすることが難しいことが多く、このシステムによって事故直後のお客さまの不安を少しでも取り除きたいと考えています。

事故に遭われたお客さまと接する社員の人材育成は保険会社にとって「一丁目一番地」の重要課題です。当社は、当社独自の行動基準「SCクレド*」を作成しています。これはお客さまの声に向き合う判断や思考の軸となります。また、保険金サービス部門では多くの女性社員が日々、お客さま対応に当たっていますので、女性が活躍できる環境づくりも重要です。

川北氏 保険金サービス部門は顧客との最も重要な接点のひとつですから、人材の育成や技術の活用によるサービスの向上に強く期待します。AIを活用したドライブレコーダーの映像分析も、事故要因の分析や、さらに事故予防システムにまで進化できるように、自動車メーカーや部品メーカーとの連携が期待されますね。

  • SCクレド
    保険金サービス部門の社員が、日常業務を進めていくうえでの判断や思考、行動の源となるもので、常にお客さまを意識し、すべてのお客さまに「まごころ」をこめたサービスを行うための、心の信条を明確にしたものです。

気候変動への適応に資する新しいビジネスの開発

木村 私の所属するビジネスデザイン戦略部では、テクノロジーを活用した社会的課題に資するビジネスの創出に取り組んでいますが、現時点でのテクノロジーで発生を防げない社会課題の一つが自然災害です。

世界の自然環境は大きく変化しており、過去30年のデータが今の社会に合わなくなってきています。近年の巨大化した災害に見られるように、保険会社として培った経験値が使えない「ニューノーマル」な事象が被害を甚大化させています。私たちはSDGsでも謳われている持続可能な社会の構築のため、このような巨大災害に対してテクノロジーを活用し、被害を未然に防止するために米国スタートアップ企業と提携してAIを活用した防災・減災の取組みを始めました。

シリコンバレーにある当社のデジタルラボを起点として「One Concern」というスタートアップ企業の紹介があり、彼らの技術を日本で使えないかという打診がありました。私はすぐに渡米し、実際のユーザーであるサンフランシスコ市やシアトル市に彼らの技術について聞いてみました。すると、従来は莫大な日数とコストをかけていた地震や洪水のシミュレーションを数十分で簡単にかつ詳細にできたという驚きの声を聞き、これを日本で活用すれば素晴らしい防災対策に繋がると思いました。

このシステムでは地域防災に関わる気象や建物などの各種データとAIを活用し、洪水・地震などの災害の発生前・発生時・発生後における正確な被害予測サービスとリアルタイムな被害状況の把握が、ブロック(区画)単位で可能となります。自治体は予測結果をもとに、避難経路の見直しや高齢住民の支援など住民参加型のトレーニングができるようになります。また、災害発生後はAIによるリアルなデータ収集と予測によって救助や復興を早めることに繋がります。現在は気象データを持つウェザーニューズとも連携して熊本市と実証実験中ですが、将来的には、多くの自治体や企業に展開することで「誰ひとり取り残さない」地域のレジリエンス強化に貢献したいと考えています。

実は私自身、東日本大震災当時、仙台で被災し東北で災害対策本部を運営したという経験があります。従来の保険は事故が起きて初めてお客さまの役に立っていましたが、この経験以降、災害が起こる前に少しでも被害を減らしたいと考えていました。当社グループが「安心・安全・健康のテーマパーク」の実現に取り組んでいる今、これにデジタルテクノロジーを活用することでチャレンジできる環境になってきています。

川北氏 静岡市は今年度、NPOとの協働事業として、気象警報の発令後に結果として災害が発生しなかった場合でも、福祉事業所が迅速に自主避難を行った場合に表彰する制度を実施します。自主避難が「空振り」となったとしても、避難する習慣をつけることで、もしものときに迅速な対応ができるよう促すのがねらいです。
One Concernとの防災システムの開発・普及では、太平洋側の自治体とも連携にも期待します。

木村 自治体の早期避難に関する取組みを応援する商品として当社が全国市長会・全国町村会と連携して展開している「防災・減災費用保険」はトリガーが発生する前に保険金を支払うという点で世界初の試みです。

川北氏 「災害対応空振りサポート保険」とも呼べますね。その対象が自治体だけでなく、福祉などの事業者にも広がることを期待しています。
高齢化や人口減少の進展により、地域は防災だけでなく、他にもさまざまな課題に直面しています。しかし行政や企業にできることにも限界があり、自分たちの地域でできることを増やすことが重要です。現状では買い物支援やコミュニティー交通など、地域住民によって運営されている活動・事業に対する保険がないと感じています。市町村経由でも良いと思いますが、地域づくりを担う団体に対する保険商品を提供することで、地域の持続可能性の向上を促してほしいと期待しています。
そうした地域や住民の取り組みに対して、今後は無事故の際の返戻金や、災害への備えや資産価値の向上のために、予防にお金を使うことを促す保険がほしいですね。

自然災害への「予防」を進化させた新しい価値創造に向けて

川北氏 災害発生後の対応の初動の早さと商品サービスのラインナップの充実度は、損害保険会社に対する社会からの大きな期待です。いかに短期間で高い精度の情報を得るか、以前と比較していかがでしょうか。

木村 予防の観点で言えば、現在開発中のシステムによってこれからどの地域でどのような被害が出るかを予測できます。損害の発生を未然に防止するシステム連動型の商品開発も今後検討したいと考えています。

川北氏 素晴らしいですね。私は日本の住宅がこのまま劣化し被害が広がることをなんとか止めたいと考えており、先ほども述べたように、予防を促す保険商品について、ぜひ個人も補償の対象に広げていただきたいです。本日は大変勉強になりました。ありがとうございました。

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