経団連企業行動憲章の改定とSDGs
関 本日は、SDGs時代の当社グループの価値創造ストーリーについて、昨年の経団連の企業行動憲章の改定や最新の動向などを踏まえて話し合いたいと思います。
まずは、二宮さんに経団連の企業行動・CSR委員会の委員長の立場として、経団連の役割や企業に求められる行動およびSDGsの理念をどう捉え行動してくべきかについて、お話しいただけますか。
二宮 SDGsというと「誰一人取り残さない」という強いメッセージが理念の根幹にあると思っています。これを翻って言えば、「これまで多くの人々を置き去りにしてしまった」という反省から強いメッセージになったということだと思います。その背景にあるのは短期的利益など求めすぎた資本主義と社会の根幹であるべき人間尊重をなおざりにしたグローバリゼーションの進展、これらが結果として貧困や格差を生んでしまった。それが今の偏狭なナショナリズム、保護主義、ポピュリズムなどを蔓延させてしまったのだろうと考えています。
昨年も申し上げましたが、SDGsの17の目標は、人類の英知の結集です。我々が次の世代にしっかりと持続可能な社会を引き継いでいくために、我々が取り組まなければならない唯一の方策であり、そのことに迷いはないはずだと思っています。この極めて高い理想であるSDGsの達成には、企業の創造性、イノベーションが欠かせないことは誰もが認識しています。そこで経団連が行ったのが企業行動憲章の改定です。経団連に加盟する1,350以上もの企業・経済団体が行動原則として、その遵守を申し合わせているものですが、今一度社会の要請に即したものに見直すことにしたわけです。
関 改定のポイントについてお話しいただけますか。
二宮 企業行動憲章の改定は、企業にとっての立ち位置、行動のあり方をしっかりと再整理したということだと思います。
「Society5.0」の実現を通じたSDGsの達成を柱として企業行動憲章を改定すること、持続可能な社会の実現が企業の基礎であることを確認し、その前文では、企業が持続可能な社会の実現を牽引する役割を担っていることを謳っています。
10原則のうち、第1条ではイノベーションを通じて、持続的な経済成長と社会的な課題の解決を図ると明快に言い切っています。第4条ではすべての人々の人権を尊重する経営を行うことを新たに条文として追加しました。そして第10条では、経営トップに対して本憲章の精神の実現が自らの役割であることを認識してリーダーシップを発揮することを強く求めています。
2030年のありたい姿からバックキャスティングで考え、事業戦略に落とし込んでいる企業はこの1年間で増加し、SDGsに資するイノベーション事例も数多く出てきていると感じています。
現在、経団連ではイノベーションの事例集を取りまとめているところです。これを日本企業間だけでなく海外の企業にもわかるように整理し、2018年7月にニューヨークで開催される国連のハイレベルポリティカルフォーラムの場で発信していきたいと思っていますし、また経団連の役割のひとつ「連携・協働のプラットフォーム」が形になって現れてきていると考えています。
関 私も企業行動憲章の改定には過去何度か関わってきましたが、今回の改定は企業の基本姿勢として、持続可能な社会の実現を牽引するということに踏み込んだ改定になっており、非常に大きな意味があったと思います。
川北 日本企業には企業行動憲章の遵守や社内への共有について、CSRレポートなどでもっと言及して欲しいという思いが強くあります。それは、世界の英知がSDGsだとすると、日本企業の営みの英知は企業行動憲章であり、地に足のついた判断基準になっていると思うからです。
だからこそ、コンプライアンスをはじめとする企業内研修で、企業行動憲章をもっと参照してほしいですね。これまでにも「べからず」的な教科書事例については、各社でしっかり研修していると思いますが、では「どうあれば良いのか」についての共有や機会の提供には及んでいません。各社だけでなく、経団連としても、めざすべき理念教育の機会を作っていただきたいと思います。
そういう意味で、今年この話題をダイアログのテーマとされたことは非常に重要な意味があると思っています。
関 プラットフォームを提供するという意味からいうと、二宮さんは経団連の外郭団体である企業市民協議会(CBCC)の会長もされていますが、今回の憲章の改定につながるような役割としてどのような取組みをされてきたか、お話しいただけますか。
二宮 CBCCは毎年海外にCSR対話ミッションを派遣して海外の情報を収集すると同時に、日本企業の活動についての発信母体として、経団連本体にも提言する役割を果たしています。また、昨年からSDGs達成に資する企業の事例を集めており、それをより充実させた形で経団連が情報を取りまとめた、そのような位置づけになると思います。
関 内外のステークホルダーと対話を重ねながら持続可能な社会の実現に向けて経団連全体が動く、という非常に大きな流れになっているということですね。
二宮 そうですね。個社、業界の中だけでなく、あらゆるステークホルダーとの連携・協働がなければSDGsという極めて高い理想は実現できない、ということを我々がもっと知るべきでしょうし、また日本企業の良い取組みをもっと海外にも知ってもらうために、会員企業の取組事例やアンケート調査結果などともうまく連携し、より充実したものにしていければと思っています。せっかくの機会ですので、ニューヨークでの国連ハイレベルポリティカルフォーラムでも、日本企業の取組みを世界と共有する、そんな場にしていけるよう発信したいと思っています。
関 今後の日本企業の取組みにおいて、もっとこうあるべき、あるいは期待する点はいかがでしょうか。
二宮 やはり日本企業は衆知を集める、様々なステークホルダーとの対話を通じて、可能性の幅を広げることが大事なのだと思います。
企業の強みをもっとオープンにして、よりよい価値に変えていく、チャンスとして活用していく、そこにもっと貪欲になるといいと思っています。今の時代、自社のみの取組みであらゆることができると考えている企業はなく、また、オープンイノベーションという言葉は当たり前になっているわけですから、衆知を集めて新しい価値につなげるということが日本の企業にとって大事だと考えます。
また、日本は失敗を許さない風土があるためイノベーションが起こりにくい、という意見をよく耳にします。失敗を恐れず一歩でも二歩でも踏み出す、という「行動」に移すことがとても大切だと思います。そのためには、失敗を許すといいますか、失敗を単純にマイナスの評価とするのではなく、ことに挑み成果を生み出す過程としてとらえ、その積極性を評価するという環境に変えていかなければいけないと思います。
関 経営者・トップの役割という点ではいかがでしょうか。
二宮 SDGsの達成には、トップが確信を持たなければ広がりを見せないと考えます。また揺るがない姿勢を示すことや共感を呼ぶような発信を繰り返し行うとともに、最後に成果に結びつける実現力が必要であり、トップの果たす役割は極めて大きいと思います。