高齢社会に向けた取組み

対談:「~介護の未来を変えていく~SOMPOケアならではの社会課題解決に向けた取組み」

川北氏には、2001年以来、当社のCSRコミュニケーションレポートに対する「第三者意見」を毎年継続してお寄せいただいています。2020年は介護保険制度20年の節目であると同時に、新型コロナウイルス感染症の拡大によって改めて介護業界の社会的意義が注目されています。今回は当社グループの新しい介護の在り方の実現を通じた社会課題解決をテーマとし川北氏と対談し、今後取り組むべき課題や期待を共有しました。(対談実施日:2020年7月27日)

SOMPOホールディングス
介護・ヘルスケア事業オーナー 執行役 兼
SOMPOケア代表取締役会長CEO 
笠井 聡

IIHOE [人と組織と地球のための国際研究所]
代表者 兼 ソシオ・マネジメント編集
発行人 川北 秀人氏

コロナ禍でのSOMPOケアの取組み

笠井 これまでもインフルエンザなどの感染症への対策をしてきましたが、今回の新型コロナウイルス感染症ほど緊張感を持ったのは初めてのことです。緊急事態宣言下においても感染のリスクと向き合いながら、日々サービス継続に取り組む現場の従業員への感謝の気持ちを込めて、1日3,000円の特別手当を支給しました。実際に現場でスタッフの声を聞いてみると、自分自身よりもむしろ長年お世話させていただいているご利用者への感染リスクに対する強い緊張感を抱えながら、日常生活から自制してくれていることが分かりました。緊急事態宣言は解除されましたが、SOMPOケアでは対策本部を継続し、感染リスクの極小化、万が一感染者が出た場合の濃厚接触者の洗い出しと迅速な対応、および応援者の派遣など、全国的な対応を引き続き高い危機レベルで実施しています。
私は今回の新型コロナウイルス感染症の拡大は、介護という仕事の価値を日本の社会に理解してもらえた機会になったと感じます。政府から介護従事者に「新型コロナウイルス感染症対応従事者慰労金」が支給されるなど、医療従事者と同等に評価いただき支援を受けたことも大変有難く、勇気づけられました。職員もその支援を受け止め、今までよりさらに「今こそ自分がやらなければ」という前向きなエネルギーを持ってくれています。こういった困難な状況下でも最前線で懸命にサービスを提供している介護従事者に対する処遇の問題を、今後解決していかなければいけないと考えます。

また、コロナ禍でご利用者のご家族には面会を控えていただいており、ご利用者の中には「自分の家族が亡くなってしまったのではないか」といった心配をされる方も出てきてしまいました。そこでオンラインでの面会を開始し、大変喜んでいただけています。離れて住んでいることから今まで頻繁に面会に来られなかったご家族にとっても、面会のハードルを下げることができています。ウィズ・アフターコロナの社会ではこのように今までは出来なかった新しい取組みにも挑戦しようと考えています。

川北 コロナ禍において御社のBCP(事業継続)の見直しや工夫などされた点はありましたか?

笠井 感染症に関するパンデミックへの対応は従来から想定していましたが、今回の新型コロナ感染症の拡大によって、具体的な対応フローがマニュアルとして出来上がった、ということが進化だと考えています。一方で、今後は自然災害と感染症が複合的に同時発生することを想定していかなければなりません。まさにこれから台風の季節で川の近くの施設は浸水リスクもありますので相当神経質になっています。コロナ禍で「3密」を避けながらの避難対応は難しいですが、今後整理し対策していく必要がある課題だと認識しています。

川北 以前、損保ジャパンが地方自治体向けに提供している「防災・減災費用保険」の福祉施設版を開発いただけないか、というお願いをさせて頂きました。現在は災害救助法が適用されれば避難に要した費用に対して少し補償されますが、そうでない場合は備えたことへの手当てがありません。損害の発生頻度などの関係で損害保険の開発が難しければSOMPOリスクマネジメントなどと連携して介護施設・支援者向けの共済のようなものができないでしょうか。介護施設を運営する社会福祉法人にとっても、内部留保を保険加入に転換することでBCP対策への投資にもつながります。御社グループがお持ちのノウハウを活かして、介護事業者が備えることへの補償をしていただきたく、ぜひ検討していただきたいです。

笠井 当社は株式会社なので形態が異なりますが、社会福祉法人の内部留保を保険に活かすというアイディアは面白いですね。

川北 2017年の改正社会福祉法では、社会福祉法人の内部留保を明確化し、地域のために再投資させる目的がありました。移動サービスや買い物支援などの社会貢献に取り組む社会福祉法人が多いですが、地域への投資という意味では保険への加入がBCP対策でも有効だと考えます。

介護事業の環境認識と、今後の課題

笠井 事業環境に関して申し上げますと、現在約10兆円の介護保険給付費が2025年には約15兆円となることから、年平均5%伸びる成長産業だと言えます。一方、労働力に関しては生産年齢人口が減少していくなかで介護従事者が足りなくなるのは目に見えています。国は増えると推定していますが、これは楽観的だと思います。仮に国の推定通り労働力が増えたとしても生産性を約30%向上させないと、今後増えてくる介護需要に対応できません。財政面でも制度運営の先行きは厳しいと見ています。
そこで、SOMPOケアでは生産性向上のためにテクノロジーとデータを使って新しい介護を切り開きたいと考えています。
具体的な取組みをいくつかご紹介いたします。

<Future Care Lab in Japan>

介護・福祉に関する新たなテクノロジーを導入・実証するための専用施設である「Future Care Lab in Japan」では、テクノロジーを活用して入居者の自立支援・QOLの維持向上と同時に、介護職員の身体的・心理的負担を軽減し働きやすい環境の構築を目指していきます。品質と生産性の両方を向上し、それに伴い介護職の処遇改善に還元していきたいと考えています。現在、介護職の平均年収は約330万円と言われていますが、年収ベースで引き上げていきたいです。

一つの例として「眠りSCAN」と呼ばれるベッドセンサーをご紹介します。これによって利用者の睡眠状況を遠隔で把握し、呼吸や心拍といったバイタルデータも取得できます。現在約30施設に導入しており、従業員の夜勤での見守り業務の負担減に貢献しています。利用者にとっても夜間の見守りが減ることで睡眠の邪魔にならず喜んでいただいています。
今後は介護付き全施設・約18,000人の利用者を対象として導入していく予定です。当社はこうしたリアルデータ(*1)戦略に価値を見出せないかと考えています。介護施設で毎日これだけのデータが取得できるようになると、今後は「薬と睡眠」、「食事と睡眠」といったパーソナルなデータの分析手法を習得し、より良いサービス提供に繋げることで未来の新しい介護の姿が見えてくると信じています。

  1. リアルデータ
    個人・企業の実世界での活動についてセンサー等により取得されるデータ(健康情報等)

<リアルデータ戦略>

リアルデータを活用し付加価値の高いサービスを提供することで、誰もが希望を抱ける明るい未来の実現に向け、当社はパラマウントベッドホールディングス株式会社との業務提携を行いました。本業務提携に基づき集約されるリアルデータをはじめ、事業活動に伴うあらゆる情報をデータ化し一気通貫で管理するプラットフォームを構築していきます。SOMPOケアは、本構想に基づき、社員の経験や直感に頼らず確かなエビデンスに基づいた「科学的介護」を実践していきます。

たとえば、次の図にある状態Aから状態Bに移行するまでの変化要因となる介護サービスや薬、食事などの「介入」をデータ化・分析することで、さらに次の状態を予測することが可能になるのではと考えています。

つまり、どのようなケアプランで、どのような介助を行い、どのような食事を提供し、そしてその結果、要介護度や認知症状等はどのように変化したのかなど、様々な観点から体調変化や事故等の予兆を把握し、事前に対策を講じることが可能になります。
これは要介護度を上げないようにする国のインセンティブとしても貢献できます。

また、データは使い切れないと意味がありません。そこで、Palantir Technologies Japan(*2)の分析力、ノウハウがこの分野で生きてくると考えます。彼らと協業で実証実験を3週間実施し、新しいことが色々と分かってきました。今後もさらに進めていきます。

*2Palantir Technologies Japan
SOMPOホールディングスとPalantir Technologiesが共同で設立したビッグデータ解析プラットフォームを展開する企業。Palantirは米国政府をはじめ世界25カ国の政府機関・大企業向けに解析プラットフォームを提供。

<その他のテクノロジー>

その他にも様々なテクノロジーがありますが、現在はスタッフが行っている食事量の記録も重さとカメラで自動化したいと考えています。
また、「Sketter」という介護にかかわる仕事のマッチングアプリも導入しました。すき間時間を持っている方向けに、介護職だけでは補いきれない部分の仕事を切り出して募集しています。人手が必要な食事時の数時間だけなど、空いた時間のある方に参加いただき、介護職だけでなく地域の方々と一緒になって利用者を支えていきたいと考えています。

拡大する介護需要を支えるソリューション事業

笠井 介護事業者は全国で6万社ほどあり、フラグメントなマーケットです。保険業界のように合併して生産性を向上できるわけではありません。人材不足や他業種からの参入で運営ノウハウが少ないなど、それぞれの介護事業運営法人が抱える課題は多様です。そこで当社が培ってきた介護事業運営の仕組みやノウハウを他社に展開し、業界全体の生産性向上につなげるためのソリューション事業「ビジネスプロセスサポート(BPS)サービス」を開始しました。介護事業運営法人のみならず、介護サービスを受けるご利用者の皆さまにも貢献できるような、『介護の担い手の「支え手」』の役割を果たしていきたいと考えています。
例えば、先ほどご紹介したFuture Care Lab in Japanでの調査研究結果を通じて品質・生産性が改善されれば、業界全体にも貢献できると考えています。

また、食事や栄養に関する総合機関「SOMPOケア FOOD LAB(フードラボ)」を2018年3月に設立しました。SOMPOケアでは約23,000人のご利用者に、1日毎食2万食以上提供しています。食事は生産性を上げるのが難しい業務ですが、デリパックという自然解凍や湯せんで簡単に準備ができるフリーズ食材を活用して美味しい食事を効率よく提供できる技術を開発し、これを他の介護事業者にも提供しています。

「ビジネスプロセスサポート(BPS)」は、2020年4月からサービスを始めたばかりでコロナの影響もあり営業活動が十分にできていませんが、新聞などマスコミに取り上げていただいたこともあり、すでに70件ほどの問い合わせをいただいており、ニーズがあると感じています。

「認知症に備える・なってもその人らしく生きられる社会」を目指して

認知症にはグループを挙げて2018年10月から取り組んでいます。介護事業のほかに、MCI(軽度認知障害)と診断された段階で保険金をお支払いする保険商品の提供など、認知症に関する社会の認知をあげていきたいと考えています。また、現在は自社の施設で実証実験をしようとしている段階ですが、「SOMPOスマイル・エイジングプログラム」という認知症への効果が実証された理論に基づくプログラムを構想しています。認知機能低下予防に資する高齢者生活習慣への介入研究分野で第一人者であるスウェーデンのカロリンスカ研究所のキビベルト教授にアドバイザーとして参加頂き、運動、栄養指導、社会参加、認知機能訓練などのエビデンスに基づいた様々なプログラムです。現在、利用者のモチベーションの維持や継続についてどう働きかけしていけるかを実証している段階です。

以上、SOMPOケアが介護業界に貢献していくための取組みについてご説明させていただきました。

川北 ご説明ありがとうございました。介護業界にどうインパクトを与えていけるかという視点で考えられていて、大変素晴らしいと思いました。介護業界のプラットフォームとなるという点は、御社の重要かつ独自の役割だと思います。この機会に、先ほども申し上げたBCPに関する業界へのコンサルテーションをぜひ取り入れて欲しいです。また、「眠りSCAN」などは業界標準とすることを御社からぜひ働きかけして欲しいですね。

新たに手がけていらっしゃるソリューション事業については、「一緒に研究しませんか?」というアプローチの方が良いですね。せっかくFuture Care Lab in Japanという研究機関があるので、他社をパートナーとして位置づけても良いのではないでしょうか。また、利用者の視点でも、御社がビジネスの目的としてデータを集めるのと、共同研究のために研究者がデータを集めるのとでは、印象が違います。ユーザーであり、研究のパートナーでもあるという位置づけで参画いただくよう業界に働きかけたほうが、他の介護事業者にとっても、また利用者にとっても、印象が良いと思います。

今回のお話を伺い、御社が業界のプラットフォームを作られる段階に入られたと、改めて強く感じました。その際に、構築されているプラットフォームがどのように有効か、つまり御社がどう課題解決をしていくか、という仮説をお持ちいただきたいです。たとえば山間部と都市部では、課題や深刻度に違いがあります。地域差を踏まえて「このサービスはどういった環境で使用されやすいか」という仮説を持つことが重要です。

こういったプラットフォームの開発は、最初は利益が薄くても、広がることが重要です。サブスクリプション型のモデルにしていくなら、ユーザーには利用料を頂いたうえでベータ版の共同テストを依頼し、研究成果を還元することが重要です。開発進捗の報告会や、トップセミナーを開き交流する機会を設けることもぜひご検討ください。

オンライン面会のツールも、今後は利用者、家族、施設といった、対象を特定したアプリなども出てくるでしょう。御社の利用者が家族とコミュニケーションをとれるプラットフォーム上で、継続して取得されたバイタルデータなどをもとに経年の健康状況を共有できるようになれば、付加価値に繋がりますね。ぜひ良い意味で慎重に進めて頂きたいと思います。

情報発信に期待

川北 また、これらの取組みを、ぜひ日本語以外で発信していただきたいと思います。学会の設立までとは言いませんが、Future Care Lab in Japanについては、海外向けに研究のブリーフを発信すると良いですね。英語で発信することで、この分野に力を入れているセンスの良い国にもマーケットが広がるのではと思います。

笠井 おっしゃる通りです。SOMPOグループのネットワークを使って米国、デンマーク、英国等の事業の在り方の勉強や意見交換をしており、今後も続けていきます。
厚生労働省とも連携し、介護保険制度に役立つデータが取れないか、一緒に研究していこうとしています。
また、今後の課題として介護サービスのスタンダードを明確にしたいと考えています。日本はサービス基準が明確ではなく、事業者と利用者が個別の交渉で決定しています。介護サービスが万能ではないことをご利用者に理解していただきたく、海外の事例を活用しながら勉強しているところです。

川北 残念ながら福祉分野でデータを使う研究者は、まだ少ないと感じています。福祉は心の問題という意見もありますが、スキルと品質はデータがないと評価できません。ぜひ研究成果を対外的に発信して、御社のポテンシャルを活かしていただきたい。

笠井 まさしく、今回の新型コロナウイルス感染症への対応でも業界団体を通じて情報発信しています。陽性者が出た場合の対応やPCR検査の対応など業界団体を通じてオープンにしていこうとしています。またYouTubeを活用し、外出できずに体の機能が低下してしまう方に向けた体操の動画を発信しました。自分達が使えると思ったものはどんどん発信していこうと思います。

川北 BCPは個社の環境で最適化されますが、社会全体にも最適化されるべき点ですので、ぜひ御社からノウハウ共有を進めていただきたいです。本日は大変勉強になりました。ありがとうございました。

その他の取組み

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